氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
     ◇
 アデライーデは一度自室に戻って簡素なドレスに着替えた後、再び屋敷内をぷらぷらと歩き回っていた。自室にいると、あの日々を思い出してしまう。もういい加減忘れてしまいたいというのに、この家はそれを許してはくれない。

 お付きの侍女を巻いて、なんとなくごろんと横になったサロンのソファで、しばらくぼんやりと天井を眺めていた。ほどなくして、廊下の向こうから人の気配を感じ取る。
 すぐに身を起こすと、アデライーデは足早にそちらへと歩いて行った。向かう廊下の先からジークヴァルトの姿が見えてくる。

「今頃現れるなんて」

 王城から戻ってきた所なのだろう。幾人かの使用人を連れてこちらへと向かってくるジークヴァルトを、アデライーデは立ちふさがるように迎えた。

「姉上」

 アデライーデの姿を認めると、ジークヴァルトはその目の前で立ち止まった。それ以上無言のまま、じっとアデライーデを見下ろしてくる。

「何か言い訳があるなら聞いてあげるけど?」

 小言を言う前に少しは言い分を聞いてやろうと、アデライーデは片眉をくいと上げた。だが、ジークヴァルトは口を開くことなく、アデライーデの体を引き寄せいきなりその腕に閉じ込めた。

 突然の弟の抱擁に、アデライーデの口はぽかんと開けられた。ぎゅっと抱きしめられて、背中をやさしくさすられる。

「……ちょっと、わたしはリーゼロッテじゃないわよ?」
「分かっている」

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