氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
     ◇
 熱に浮かされたまま、全身が痛みを訴える。痛すぎて、もうどこが痛いのかすらわからなくなってくる。ひりつくようなのどの渇きを覚えるが、動こうにも体の自由がまるできかない。
 感覚全てが不快に感じる。アデライーデはこの行き場のない熱に、ただ耐えるしかなかった。

 時折口に流し込まれる苦い液体が、痛みを和らげてくれることに幾度目かで気がついた。針を刺すような激痛が鈍痛に代わる程度のものだが、うすぼんやりとしたまどろみを、その苦みは与えてくれた。

 あの時、ハインリヒの気配を感じた。ふわりと何か温かいものに包まれて、一瞬、遅れてやって来た激痛に、息が止まってそのまま意識を手放した。次に気づいたときは、このまるで動けない状態だった。

 王妃の離宮に泊まった日から、すでに幾日も過ぎたようだ。世話をする侍女たちの会話からそんなことが分かった。ここは領地の屋敷で、自分は大怪我を負ったらしい。

 夢うつつに、父と母が口論するのが耳に入った。珍しいこともあるものだとぼんやりと思ったのは、その時あの苦い薬湯が効いていたからだろう。
 その口論の中で、自分はハインリヒの守護者のせいでけがを負ったということを知った。父は激怒した様子で、母はしばらくそれを黙って聞いていた。

 流し込まれる液体に、味のないスープが加わったころ、ようやく少しは思考が働くようになってきた。包帯でぐるぐる巻きにされた全身は、まだひとりで起き上がることすらできなかった。

 まどろみから意識が浮上して、アデライーデはふと視線を巡らせた。薄暗い寝台の脇に誰かが座っている。寄りかかるようにして座る黒い頭だけが、足元の布団越しにちらりと見えた。
 その(ぬし)は直接床に座って、寝台に背を預けているようだ。時折紙をめくるような音がするので、そこで本を読んでいるのかもしれない。

「あなた、そこで何してるのよ?」

 思った以上にしゃがれた声が出た。しばらく言葉を発してなかったせいもあるだろうが、のどの渇きが不快感を訴える。

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