氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「ほかに必要なものは?」
「特にないわ」

 かすれた小声で答えると、ジークヴァルトは「そうか」と言って、再び寝台の脇に座り込んだ。本をめくる音が、静かに再開される。

「……あなた、そこで何やってるのよ?」
「読書だ」

 先ほどと同じ質問をすると、ジークヴァルトはやはりそっけなく答えた。

「そんな暗い場所で読むことないでしょう?」

 この部屋はアデライーデが眩しくないようにと、一日中薄暗くされていた。包帯を巻かれた頭は片眼を覆って、四六時中ズキズキと痛みを訴える。僅かな光にも刺激され、その痛みは悪化した。

「エマはどうしたの?」
「エマニュエルは今休ませている。何かあったら呼ぶように言われているが、呼んだ方がいいか?」
「今はいいわ」

 エマニュエルはずっとアデライーデにつきっきりで看病していた。きっと彼女の体力も限界を超えているのだろう。

「それで、あなたはそこで何してるのよ。もっと明るいところで読めばいいでしょう」
「十分読める。気にするな」

 そっけなく言いながら、再びページは(まく)られた。こんな暗い部屋で文字など読めるはずもないだろう。

「変な子ね」
 ジークヴァルトはここ最近、王城で過ごすことが多かったはずだ。未来の王の補佐をする立場としての事だったが、それも貴族の跡取りとして当然の流れだった。

 父のあの怒りようは、ジークヴァルトにも波及したのだろう。王家と戦争も辞さない勢いの父は、別人のようだったとぼんやり思った。

 どうしてこんなことになってしまったのか。
 アデライーデは泣きそうになって無理やりその目をきつく閉じた。

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