氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「わたし修道女になるの。だから髪はもう必要ないわ」

 二度と夜会で美しく着飾ることもない。手入ればかりに時間がかかるこんな髪など、無用の長物だ。

「そうなのか?」
 感情のこもらない声で、ジークヴァルトはそれでも少し不思議そうに尋ねてきた。

「ええ、そうよ。ねえ、ヴァルトが切ってよ」

 鏡台の前に置かれたスツールに背を向けて腰かける。はさみを手にしたジークヴァルトが、一度だけ聞き返した。

「それが姉上の望むことなのか?」
「そうよ。いいから早く切ってちょうだい」

 アデライーデの返答に、ジークヴァルトはアデライーデの髪をひと房持ち上げた。何の戸惑いもなく、はさみをその髪にくぐらせる。

「何をなさっているのですか!?」

  横からしがみつくようにエマニュエルがジークヴァルトの腕の動きを止めた。真っ青な顔をして、ジークヴァルトから乱暴にはさみを奪う。

「姉上の髪を切ろうとしただけだ」

 そっけなく言ったジークヴァルトに、エマニュエルは信じられないような目を向けた。

「髪は女の命でございます! それを切ろうなどとっ」

 いつもの冷静さはそこにはなかった。エマニュエルの剣幕に、ジークヴァルトはぎゅっと眉根を寄せた。

「そうなのか?」
 アデライーデに問うてみる。もう必要がないと言ったのはアデライーデだ。

「人によるわ」

 冷たく吐き捨てたアデライーデにエマニュエルが苦しい表情を向ける。

「いいのよ。エマ、わたし修道女になるわ。だからもういらない」
「アデライーデ様……!」

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