氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 エマニュエルが悲痛の声で叫んだ。途端にその瞳から涙が溢れ出てくる。

 アデライーデの髪は何よりの自慢だった。ただ長くするだけなら誰でもできるが、美しく伸ばすのはたゆまぬ手入れと、そして長い歳月が必要だ。

 エマニュエルはずっとアデライーデのそばにいた。その誕生から、ただの使用人としてだけでなく、姉のように、友のように。勝ち気でまっすぐで、誰よりも気高く美しい、そんなアデライーデの輝かしい未来を、エマニュエルは共に生きるはずだった。

 エマニュエルははさみをきつく握りしめたまま、アデライーデの名を呼んで少女のように慟哭した。これ以上ないくらいに握り込まれた拳から滴り落ちる血が、冷たい銀のはさみを伝っていく。

 どんな時も冷静さを欠くことのなかったエマニュエルの泣き顔に、アデライーデは呆然とした。ジークヴァルトがその拳を開かせ、そっとはさみを取り上げる。血まみれになった手のひらで、エマニュエルは自らの顔を覆い隠した。

「エマ……修道女になるなんてもう言わないわ。勝手に髪を切ったりもしないから……」

 泣きじゃくるエマニュエルを抱きしめながら、アデライーデはそのときすべての感情を手放した。もうこれ以上失いたくない。ただその一心だった。

 ジークヴァルトは黙ってふたりを見つめ、それ以上、何も言わなかった。

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