氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「ちょっと。なんでこんなにうまいのよ」
 鏡に映ったその出来栄えに、半ば呆れた声が出る。

「書いてあるままにやっただけだ」

 得意げになるでもなくそっけなく言うジークヴァルトに、「可愛げのない弟ね」と返した。

「じゃあ、次はこっち」

 今度は複雑な編み込みを指定した。少しは困る顔を見てみたい。だがジークヴァルトはあっさりとその髪型を作り上げていく。

「何をなさっているのですか!?」

 こわばったエマニュエルの声が聞こえ、ふたりは同時に振り返った。櫛とピンと持ったジークヴァルトと、美しく髪を編み込まれたアデライーデを見て、エマニュエルが目を丸くする。口をパクパクしたまま、声にならないでいるようだ。

「髪をいじってもらってるだけよ。何も心配いらないわ」

 ゆるく微笑み、忙しいエマニュエルを部屋から追い出した。エマニュエルはもう子爵家へ嫁ぐことが決まっている。ようやくつかんだ幸せだ。これ以上、自分が足手まといにはなりたくなかった。

 ふたりきりに戻った室内で、編み込みを続けるジークヴァルトの顔を鏡越しに覗き込む。表情を変えることなく、黙々と髪に指を絡ませている。

「ねえ、ヴァルト。わたしはもう大丈夫よ」

 その言葉にジークヴァルトの指の動きが止まる。探るようにジークヴァルトも、アデライーデの瞳を見つめてきた。
 鏡を通して、同じ色をした瞳が見つめ合う。ずっと他人のようだった弟は、それでも自分の弟でいてくれた。

 公爵家として、王家との繋がりを断絶してこの先やっていけるはずもない。領民の生活を守るためにも、私怨にまみれて愚かな行いに突き進むことは避けるべきだ。
 自身の境遇を嘆き悲しむだけの人生を送るには、アデライーデは誇り高い貴族の矜持を持ち過ぎた。

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