氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「お父様にも言っておくから、あなたはもう前の生活に戻りなさい」
「それが姉上の望みなのか?」

 その聞きようが、なんともジークヴァルトらしい。必要に迫られて、ジークヴァルトはいつでも正しい選択をする。だが、それがジークヴァルト自らのために選ばれることは一度もなかった。

「ええ、そうよ」

 アデライーデの返事に頷くと、ジークヴァルトはアデライーデの好きな明るい色のリボンを髪に巻き付けた。リボンは綺麗な曲線を描き、最後にきゅっと(しぼ)られる。

 その出来栄えをじっと見つめながら、ジークヴァルトは不意にぽつりと言った。

「なんなら、オレがあいつを殴って来るが」
 あいつとはハインリヒの事だろう。

「別にいいわ。どうせ殴るなら、いつか自分のこの手で殴り飛ばしに行くから」

 憮然として答えると、ひそやかに笑う気配がした。鏡越しに見ると、そこには変わらず無表情のジークヴァルトがいただけだった。
 櫛を置くと、ジークヴァルトは部屋を後にした。それ以降、その顔を見ることのない日々が再び訪れた。


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