氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「わたしの娘のイザベラなのですが、王太子殿下の夜会のパートナーにどうかと思いまして」
「すまないがそれは無理だ」
即答したハインリヒに、ブラル伯爵は安堵したようにうんうんと頷いた。
「そうでしょうそうでしょう、いやはや安心いたしました」
自分で聞いておいてその反応はないだろう。訝し気な顔のハインリヒに、ブラル伯爵は裏のない笑顔を向けた。
「いえ、わたしには子供がもうひとり、長男のニコラウスがいるのですが、恥ずかしながらニコラウスは愛人に産ませた子供なもので、妻が家督を継がせることに難色を示してですね。いや、妻とニコラウスの仲は良好なのですよ。ですが妻にしてみれば、やはり血を分けた娘が可愛いというのは人の性。いろいろと話し合った結果、我がブラル家は婿養子を迎えてゆくゆくはイザベラの子供に継がせようということになりましてね。ニコラウスもそこのところは十分納得しておるのです。しかし当のイザベラは兄を差し置いてそんなことはできないと、他家へと嫁ぐと言ってきかなくてですね。いやはや、兄思いの心根のやさしい娘に育ってくれてわたしも感激のあまり涙が止まらなくなり……」
「宰相……それで、一体何が言いたいのだ?」
放っておくといつまでもしゃべっていそうなブラル伯爵を、ハインリヒはようやくの思いで制した。
「ああ、これはとんだご無礼を。可愛い娘のことになるとどうにも親馬鹿になっていけませんな。まあそんな事情でして、妻がもしもイザベラを王族へと嫁がせることができるのならば、ニコラウスに家督を譲っても構わないと申してですね。王太子殿下に一応聞くだけ聞いてみようと、あのようなことをお伺いした次第です。いや、わたしも殿下のお返事は分かり切ってはいたのですが、何せ妻にはわたしの嘘が一切通用しなくてですね。お伺いせぬままやはり無理だったと言うのは何と申しましょうか、どんなにうまく誤魔化しても妻には見抜かれてしまうというか」
「事情はわかった。しかし宰相は、わたしの不興を買うとは思わなかったのか?」
マシンガントークを繰り広げるブラル伯爵を、ハインリヒは呆れたように手で制した。託宣の存在を知らないとしても、ハインリヒが近づく令嬢たちを冷たくあしらっている姿は何度も目にしているはずだ。そのたびに不機嫌になっている様子も、ずっとそばで見ていただろう。
「すまないがそれは無理だ」
即答したハインリヒに、ブラル伯爵は安堵したようにうんうんと頷いた。
「そうでしょうそうでしょう、いやはや安心いたしました」
自分で聞いておいてその反応はないだろう。訝し気な顔のハインリヒに、ブラル伯爵は裏のない笑顔を向けた。
「いえ、わたしには子供がもうひとり、長男のニコラウスがいるのですが、恥ずかしながらニコラウスは愛人に産ませた子供なもので、妻が家督を継がせることに難色を示してですね。いや、妻とニコラウスの仲は良好なのですよ。ですが妻にしてみれば、やはり血を分けた娘が可愛いというのは人の性。いろいろと話し合った結果、我がブラル家は婿養子を迎えてゆくゆくはイザベラの子供に継がせようということになりましてね。ニコラウスもそこのところは十分納得しておるのです。しかし当のイザベラは兄を差し置いてそんなことはできないと、他家へと嫁ぐと言ってきかなくてですね。いやはや、兄思いの心根のやさしい娘に育ってくれてわたしも感激のあまり涙が止まらなくなり……」
「宰相……それで、一体何が言いたいのだ?」
放っておくといつまでもしゃべっていそうなブラル伯爵を、ハインリヒはようやくの思いで制した。
「ああ、これはとんだご無礼を。可愛い娘のことになるとどうにも親馬鹿になっていけませんな。まあそんな事情でして、妻がもしもイザベラを王族へと嫁がせることができるのならば、ニコラウスに家督を譲っても構わないと申してですね。王太子殿下に一応聞くだけ聞いてみようと、あのようなことをお伺いした次第です。いや、わたしも殿下のお返事は分かり切ってはいたのですが、何せ妻にはわたしの嘘が一切通用しなくてですね。お伺いせぬままやはり無理だったと言うのは何と申しましょうか、どんなにうまく誤魔化しても妻には見抜かれてしまうというか」
「事情はわかった。しかし宰相は、わたしの不興を買うとは思わなかったのか?」
マシンガントークを繰り広げるブラル伯爵を、ハインリヒは呆れたように手で制した。託宣の存在を知らないとしても、ハインリヒが近づく令嬢たちを冷たくあしらっている姿は何度も目にしているはずだ。そのたびに不機嫌になっている様子も、ずっとそばで見ていただろう。