氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
     ◇
「ほら、アンネマリーも抱いてごらんなさい?」

 言われるがまま恐る恐る赤ん坊を腕に受け取った。思うよりずしりと重い赤子は、つぶらな瞳でアンネマリーをじっと見つめてくる。

(かわいい……)

 そう思うものの、まだ首も座っていないような赤ん坊だ。おくるみには包まれているが、落ち着かない不慣れな手つきにすぐにぐずつきだした。慌てて母親の手に戻すと、とたんにご機嫌顔になる。ぷにぷにのほっぺを軽くつついてみれば、小さな口からよだれをあふれさせながら、だぁとうれしそうに目を細めた。

 アンネマリーは母ジルケと共に、親類の屋敷で行われる浸泉式(しんせんしき)に参加していた。浸泉式は生まれたばかりの赤子に祝福を授ける儀式の事だ。神官を招いて行われるこの儀式は、貴族の子ならば必ず受ける義務がある。

 ようやく到着した神官の手に、母親が心配そうな様子で裸の赤ん坊を託した。盲目のその神官は、女性と見まごうほどの綺麗な顔立ちをしている。この場に立ち会った誰もが、老若男女問わずその美しさに見とれていた。

 緩く後ろで束ねられた長い銀髪は、赤ん坊に配慮しての事だろう。赤子はぐずることなくおとなしくその手に収まっている。慣れた手つきで聖水が入れられた桶まで運ぶと、神官は手にした赤子をゆっくりと湯に浸けていった。頭とおしりを支えられながら、湯の中でほわっと気持ちよさそうな顔を作った。

「この新たな命に青龍の祝福を」

 神官の声と共に桶の水に波紋が広がる。うれしそうに赤子はばっしゃっばっしゃと乱暴に水面をたたいた。

「まあまあ! 神官様、申し訳ございません!」

 年配の夫人が慌てて使用人にタオルを持ってこさせる。赤子を桶から引き揚げ母親へと手渡すと、神官は閉じた瞳のままやさしげに微笑んだ。

「よくあることですので問題ありません。青龍の祝福が心地よかったのでしょう。むしろ元気な(あかし)、喜ばしいことです」

 神官の濡れた髪から水が(したた)り落ちていく。タオルを手渡そうとしていたメイドの少女が、見とれた様子でぽかんと口を開けている。

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