氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「あの時は夏だったからまだよかったけれど、なんだか手つきも慣れていない若い方だったものね」
「生まれたての赤子を冷たい水に浸すだなんて、きっと新米の神官様だったんだわ。祝福の言葉もそこそこに、そそくさと帰って行ったもの」

 今だから笑えるのだろうとしても、アンネマリーは少しばかりおもしろくなさそうな顔をした。だがみなの笑いにつられて、結局は口元がほころんでしまう。

「やっと笑ったわね」

 その言葉は、ようやく泣き止んだ赤ん坊に向けられたのかと思いきや、ジルケはやさし気にアンネマリーを見つめていた。

「お母様……」
「安心なさい、アンネマリー。わたしたちはみなあなたの味方よ」

 親戚一同がアンネマリーをやさしく見やる。王妃のたくらみのせいで、アンネマリーの社交界での立ち位置は、微妙ものとなってしまった。だが今この場には、白の夜会での出来事をおもしろおかしく話す者などひとりとしていなかった。

 ジルケの妹であるクリスタも、アンネマリーのためにあちこちの茶会や夜会で心を砕いてくれている。リーゼロッテがジークヴァルトの婚約者であると知らしめた今、ダーミッシュ伯爵夫人とお近づきになりたい貴族は山ほどいた。そんなクリスタの姪であるアンネマリーを、悪く言おうとする者はそれほど多くはない。

 親戚一同もアンネマリーの不名誉を少しでも解消すべく、一丸となって動いていた。その事実を知り、アンネマリーの瞳は自然と潤んでいく。

「大丈夫よ、何も心配いらないわ。新年を祝う夜会にも、堂々と出席すればいいのだから」

 溢れる涙で、返事をすることができなかった。零れ落ちる涙をそのままに、アンネマリーはただ黙ってジルケに頷き返した。

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