氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
◇
「王兄殿下、命により参上いたしました」
「おせぇな、ようやく連れてきたか」
正午過ぎに公爵家に戻って早々、バルバナスの元をジークヴァルトと共に訪れた。淑女の礼を取るリーゼロッテをちらりと一瞥しただけで、バルバナスはついて来るようにと歩き出す。
慌ててその背を追おうとすると、後ろ手を引かれて、ジークヴァルトに抱え上げられた。驚きに思わずその首にしがみついてしまう。
「ヴァルト様……わたくし自分で歩けますわ。降ろしてくださいませ」
「駄目だ、却下だ」
抱く手にぎゅっと力を入れたジークヴァルトは、有無を言わさず歩き出した。子供抱きにされたまま、ずんずんと廊下を進む。その顔を伺うも、機嫌はあまりよろしくないようだ。
馬車の中でジークヴァルトは始終無言だった。ただジョンに会わせるとだけ言って、その後はずっと不機嫌そうに、膝に乗せたリーゼロッテの髪に指を絡めていた。
(そんなにジョンに会わせたくないのかしら……)
泣き虫ジョンが星を堕とす者だと言うことに、リーゼロッテはいまだ納得できていない。
自分が話したことがきっかけで、こんな大事になってしまった。ジョンには申し訳ないことをした。そんなことばかりが頭をよぎる。
裏庭に出て、踏み固められた雪道を進む。日当たりの悪いこの方面は、寒さも倍増に感じられた。だが雪が降っていない分だけ、今日はまだましな日だと言えるだろう。白い息を吐きながら、一行は程なくして泣き虫ジョンの元へとたどり着いた。
そこで待っていたのは、昨日と同じ面々だった。数人の騎士をはじめエッカルトたち公爵家の者の視線が、遅れてやってきたこちらに集まった。
抱えあげられたまま、遠巻きにジョンの姿を見やる。枯れ木の周りだけ、円を描いたように雪が積もっていなかった。上を見上げると、あの日リーゼロッテが視たままに、木に絡みついた自身の力が鮮やかな緑の光を放っていた。
(ジョン……)
心の中で呼びかけるも、ジョンは木の腹に片手をついたままじっと上を見上げている。もっと近くに行ってみたい。そう思うが、ジークヴァルトはここにいる誰よりも遠い場所から、その足を進めようとしなかった。
「王兄殿下、命により参上いたしました」
「おせぇな、ようやく連れてきたか」
正午過ぎに公爵家に戻って早々、バルバナスの元をジークヴァルトと共に訪れた。淑女の礼を取るリーゼロッテをちらりと一瞥しただけで、バルバナスはついて来るようにと歩き出す。
慌ててその背を追おうとすると、後ろ手を引かれて、ジークヴァルトに抱え上げられた。驚きに思わずその首にしがみついてしまう。
「ヴァルト様……わたくし自分で歩けますわ。降ろしてくださいませ」
「駄目だ、却下だ」
抱く手にぎゅっと力を入れたジークヴァルトは、有無を言わさず歩き出した。子供抱きにされたまま、ずんずんと廊下を進む。その顔を伺うも、機嫌はあまりよろしくないようだ。
馬車の中でジークヴァルトは始終無言だった。ただジョンに会わせるとだけ言って、その後はずっと不機嫌そうに、膝に乗せたリーゼロッテの髪に指を絡めていた。
(そんなにジョンに会わせたくないのかしら……)
泣き虫ジョンが星を堕とす者だと言うことに、リーゼロッテはいまだ納得できていない。
自分が話したことがきっかけで、こんな大事になってしまった。ジョンには申し訳ないことをした。そんなことばかりが頭をよぎる。
裏庭に出て、踏み固められた雪道を進む。日当たりの悪いこの方面は、寒さも倍増に感じられた。だが雪が降っていない分だけ、今日はまだましな日だと言えるだろう。白い息を吐きながら、一行は程なくして泣き虫ジョンの元へとたどり着いた。
そこで待っていたのは、昨日と同じ面々だった。数人の騎士をはじめエッカルトたち公爵家の者の視線が、遅れてやってきたこちらに集まった。
抱えあげられたまま、遠巻きにジョンの姿を見やる。枯れ木の周りだけ、円を描いたように雪が積もっていなかった。上を見上げると、あの日リーゼロッテが視たままに、木に絡みついた自身の力が鮮やかな緑の光を放っていた。
(ジョン……)
心の中で呼びかけるも、ジョンは木の腹に片手をついたままじっと上を見上げている。もっと近くに行ってみたい。そう思うが、ジークヴァルトはここにいる誰よりも遠い場所から、その足を進めようとしなかった。