氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「抱えたままでいい。もっとあいつに近づけろ」
 命令し慣れているだろうその声に、それでもジークヴァルトは動こうとしない。

「……ヴァルト様」
 その冷えた頬を、リーゼロッテは小さな両手で包み込んだ。

「わたくし怖くはありませんわ。ヴァルト様がいてくださいますから」

 ぐっと眉間にしわを寄せると、バルバナスの焦れたような舌打ちを合図に、しぶしぶジョンへ向かって歩き出した。円の一歩手前で立ち止まると、「手前ギリギリまで進め」とすかさずバルバナスの声が飛ぶ。

「ジークヴァルト、まずはお前が一発叩き込め」

 リーゼロッテがはっと顔を上げると、すでにジークヴァルトはジョンに向かって手をかざしていた。制止する暇もなく、その手のひらから青い力が放たれる。
 しかし、濃縮された青の光がジョンへと届くことはなかった。放たれた力は反れるように上方へと向かい、そのまま枝に絡む緑に飲まれるようにかき消えた。

「っち、役立たずだな」

 ジークヴァルトの力は絶大だ。バルバナスはもとより、あのマルグリットの力をも(しの)ぐかもしれない。それでもバルバナスは忌々(いまいま)しそうに毒づいた。

「おい、リーゼロッテ。お前の力だ。お前がどうにかして来い」
「お言葉ですが……」
「おめえには言ってねぇ! リーゼロッテ、お前が行くんだ」

 ジークヴァルトに反論を許さず、バルバナスは顎で絡みつく緑を指し示した。

 ジョンへの恐怖はない。(かたく)なに自分を降ろそうとしないジークヴァルトの顔を、リーゼロッテはそっと覗き込んだ。

「ジークヴァルト様」
「駄目だ」
「ですが……」

 こちらを睨みつけているバルバナスを不安げに見やる。王兄の命令に背くなど、いかにジークヴァルトとはいえ、どんな処罰が待つか分からない。

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