氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「ちっ、めんどくせぇな。もういいからふたりで入れ。託宣の相手くれぇ守れんだろう? なぁ、ジークヴァルト」

 その言葉をジークヴァルトはジョンを見据えたまま聞いていた。

「離すなよ」

 リーゼロッテの耳元で言って、ジークヴァルトは円の中へと踏み込んだ。思わずその首筋へとしがみつく。ジークヴァルトが数歩歩いただけで、ジョンのすぐそばまでやってきた。だが、手を伸ばしても届かない。そんな距離に思えた。

 あの力をどうにかしろと言われたが、何がどうしてああなったのか、リーゼロッテにも皆目(かいもく)見当がつかなかった。いつもはふわりと大気に溶けてしまう自分の力が、なぜあそこに留まっているのか。むしろこちらが教えてほしいくらいだ。

「ジョン……」

 仕方なくまずはジョンに声をかけてみる。しかし、その呼びかけに反応する様子はなかった。ジョンは木の腹に片手をついて、ただじっと上を見上げている。

 ふと思ってジークヴァルトの顔を見る。その耳元で囁くと、ジークヴァルトは眉間にしわを寄せた。

「……ならばオレがやる。お前は力を抜いてただ感じていろ」

 頷くと、ジークヴァルトは慎重にリーゼロッテを地面に降ろした。そのまま後ろから抱え込むように手を回す。リーゼロッテは胸元で祈るように手を組んだ。その上からジークヴァルトが大きな手を重ねてくる。

 包み込んだ小さな手の中に、ジークヴァルトは緑の力を集めていった。きゅうとそれは小さな結晶となり、重なる手と手の隙間から幾筋かの光をこぼした。

「いくぞ」

 その言葉を合図に、リーゼロッテは握り込んだ手を開く。緑の結晶はまっすぐにジョンへと放たれ、その体を一瞬で包みこんだ。

 そのまま天へと還ってほしい。リーゼロッテはそう願った。
 無理やりに(はら)われてしまうというのなら、せめてこの手で送ってやりたかった。その願いを聞けずとも、自分ならば苦しまずに昇らせてあげられるはずだから。

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