氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「美しゅうございますね、お嬢様」

 青年の声に女性は瞳を伏せて、「そうね」と小さくつぶやいた。横に置かれたトルソーに、見覚えのある豪奢(ごうしゃ)な首飾りが飾られている。

(あれは……オクタヴィアの瞳だわ)

 白の夜会で自分が身に着けたものと、全く同じものがそこにはあった。複雑に光を返す輝石の数々、その中心に輝くは一粒の青い守り石――。

「この意匠はオクタヴィアお嬢様のために、特注で王弟殿下が作らせたとか。本当に素晴らしいものですね」

 その言葉に守り石と同じ青の瞳が揺れ動く。オクタヴィアは再び「そうね」と言って、そっと目をそらした。

 ――これでいい。
 その苦しみを知りながら、青年――ジョンは言い聞かせるように繰り返す。これでいい。これでお嬢様はしあわせになれる。悲しみはいつかあの唄に乗せて、消えてなくなってしまえばいい。

 再び景色がぶれる。リーゼロッテはただ流されるままだ。
 春の日差しの中、裏庭で一本の木に駆け寄っていくオクタヴィア。その根元にいるのは、騎士服を着たひげ(づら)(いか)つい男だ。

「レオン・カーク様!」

 オクタヴィアは頬を染めて、その男の胸へと飛び込んでいく。抱き合うふたりは、しあわせそうに見つめ合った。その影はゆっくりと近づき、ひとつに重なっていく。
 遠巻きに見つめていたジョンは、両手をきつく握りしめそこから顔をそむけた。

 景色が流れ、今度は長い廊下に降り立った。少し先に、オクタヴィアとすらりとした印象のプラチナブロンドの青年がいる。青年がやさし気にオクタヴィアをエスコートしていく。ジョンはそのふたりの姿を静かに眺めやっていた。

 廊下の端に並んで礼を取る使用人たち。その中にあのレオン・カークも当たり前のように紛れている。
 カークは(こうべ)を垂れたまま、オクタヴィアの婚約者である王弟へと礼を取る。その横を通り過ぎるとき、オクタヴィアは今にも泣きそうな視線をカークへと送った。
 何もできぬまま、オクタヴィアはただその横を素通りする。耐えるように跪くカークを、オクタヴィアは悲し気に振り返った。婚約者に促されて、仕方なく再び歩を進めていく。

 ――これでいい。これでお嬢様はしあわせになれるのだから。

 ジョンは呪文のように繰り返す。カークを冷たく見やって、ジョンもその横を黙って通り過ぎた。

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