氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
秋風が吹く頃、それほど広くない部屋の中、オクタヴィアが涙ながらにジョンを見上げていた。駆け落ちの計画が、父親にばれてしまった。あれほど秘密裏に事を進めていたなずなのに。
「お願い、ジョバンニ。もうあなたしか頼れる者はいないの。どうかこれをあの方に……」
閉じ込められた一室で悲しみに暮れたまま、オクタヴィアは信頼を寄せるジョンに、一通の手紙を手渡した。
笑顔で頷き、ジョンはその場を後にする。扉を閉めた後、部屋の中から唄が聞こえてきた。会えない恋人を切なく想う、ありきたりな愛の唄だ。その物悲しい旋律は、今にもかき消えそうに細く弱く響いていく。
その唄を聞きながら、ジョンは託された手紙を、表情なく破り捨てた。その足でオクタヴィアの父親の元へ向かい、いつも通りすべてを包み隠さず報告した。
証拠がないまま、カークは処罰を受けることとなった。オクタヴィアが数日後に迫る婚姻から逃げ出さないよう、庭から部屋を見張るようにと命がくだされた。
雨の中、カークは裏庭にひとり立つ。見張るように命じた部屋に、オクタヴィアはいない。カークにもそれは分かっているだろう。その建物は使用人が利用するだけの、取るに足りないものだった。
地面の一点を見つめたまま、耐えるようにカークは立っていた。土砂降りの雨に濡れそぼるその姿を、廊下の窓からジョンはじっと見やった。
邪魔者は消えた。これで、お嬢様はしあわせになれる。誰よりも大切なボクのお嬢様――
婚姻が果たされる日の前日に、ジョンの元にカークが死んだとうわさが届いた。冷たい雨が降りしきる中、夜通し庭で立っていたカークは、肺炎をこじらせてこの世を去ったらしい。
――これでいい。お嬢様はこれで、真のしあわせを手に入れる。
いずれカークの死は、オクタヴィアの耳にも届けられるだろう。その嘆きは、今も聞こえているあの唄にのせて、やがてきっと消えていく。
閉じ込められた部屋から絶えず聞こえていた唄が、その朝ぱたりとやんだ。
屋敷中の者が、消えたオクタヴィアの姿を求める。
胸騒ぎを覚えたジョンの足は、誰も知らないあの裏庭へと向かった。いまだ雨が降りしきる中、オクタヴィアはその木の根元にいた。濡れそぼったまま、ぐったりと木へとその身を任せている。
「オクタヴィアお嬢様!」
「お願い、ジョバンニ。もうあなたしか頼れる者はいないの。どうかこれをあの方に……」
閉じ込められた一室で悲しみに暮れたまま、オクタヴィアは信頼を寄せるジョンに、一通の手紙を手渡した。
笑顔で頷き、ジョンはその場を後にする。扉を閉めた後、部屋の中から唄が聞こえてきた。会えない恋人を切なく想う、ありきたりな愛の唄だ。その物悲しい旋律は、今にもかき消えそうに細く弱く響いていく。
その唄を聞きながら、ジョンは託された手紙を、表情なく破り捨てた。その足でオクタヴィアの父親の元へ向かい、いつも通りすべてを包み隠さず報告した。
証拠がないまま、カークは処罰を受けることとなった。オクタヴィアが数日後に迫る婚姻から逃げ出さないよう、庭から部屋を見張るようにと命がくだされた。
雨の中、カークは裏庭にひとり立つ。見張るように命じた部屋に、オクタヴィアはいない。カークにもそれは分かっているだろう。その建物は使用人が利用するだけの、取るに足りないものだった。
地面の一点を見つめたまま、耐えるようにカークは立っていた。土砂降りの雨に濡れそぼるその姿を、廊下の窓からジョンはじっと見やった。
邪魔者は消えた。これで、お嬢様はしあわせになれる。誰よりも大切なボクのお嬢様――
婚姻が果たされる日の前日に、ジョンの元にカークが死んだとうわさが届いた。冷たい雨が降りしきる中、夜通し庭で立っていたカークは、肺炎をこじらせてこの世を去ったらしい。
――これでいい。お嬢様はこれで、真のしあわせを手に入れる。
いずれカークの死は、オクタヴィアの耳にも届けられるだろう。その嘆きは、今も聞こえているあの唄にのせて、やがてきっと消えていく。
閉じ込められた部屋から絶えず聞こえていた唄が、その朝ぱたりとやんだ。
屋敷中の者が、消えたオクタヴィアの姿を求める。
胸騒ぎを覚えたジョンの足は、誰も知らないあの裏庭へと向かった。いまだ雨が降りしきる中、オクタヴィアはその木の根元にいた。濡れそぼったまま、ぐったりと木へとその身を任せている。
「オクタヴィアお嬢様!」