氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 オクタヴィアの(まぶた)が揺れた。抱き起したジョンに向けて、うつろな瞳が開かれる。

「わたくし、まだ生きているの……? お願い、ジョバンニ。わたくしをあの方の元へ……」

 懇願するように、オクタヴィアはジョンの両手を自身の首に導いた。冷たく青ざめたその肌に、震えるジョンの手が沿わされていく。
 ジョンの手が離れぬよう、力ない腕がそっと支える。貼りついたドレスの(そで)から、透けるように丸い文様――龍のあざが垣間見えた。

(オクタヴィアは、龍の託宣を受けていたんだわ……!)

 そう思ったとき、首に手をかけたまま動けないでいるジョンに、オクタヴィアが囁いた。

「お願い、ジョバンニ。――わたくしを殺して」

 滝のような雨の中、催眠術にかけられたかのように、ジョンはぐっとその手に力を入れた。苦しそうに歪められたオクタヴィアの表情は、やがてうっとりと満ちたりたものへと変わっていく。

「ああ……カーク様……ようやくあなたの元へ……」

 これ以上ない満足そうな顔だった。そんなにも。そんなにもあの男だけを選ぶというのか。
 爆発したように、一気にジョンの感情が膨れ上がった。

 ――大切なお嬢様。龍に選ばれ、王子に守られ、誰よりもしあわせになるはずのボクだけのお嬢様。それなのに、なぜ、なぜ、なぜ、なぜ……!

 激流のようにジョンの感情が巡っていく。
 ボクの愛は届かない。勝ち目のない龍の選んだ王族ならばまだしも、なぜあの男でなければならないのか。
 満足そうに微笑むオクタヴィアの首を、ジョンは折れんばかりに締め上げた。

 憎い、憎い、憎い、あの男が、どんなに焦がれても、この手に届かぬオクタヴィアが――

 細い首がのけぞり、ジョンの腕をつかむ手が力なく地面に落ちる。ジョンは滂沱(ぼうだ)の涙を流しながら、天に向かって咆哮(ほうこう)を上げた。

< 534 / 684 >

この作品をシェア

pagetop