氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 怒りの矛先(ほこさき)が自分に向けられたことが分かると、ユリウスは降参を示すように軽く両手を上げた。バルバナスに向けてにかっと笑う。
 その様子に舌打ちをすると、バルバナスは忌々し気にエッカルトからその手を離した。

「アデライーデはどこへ行った?」
「グレーデン家ですよ。物好きなことに、女帝に会いにね」

 ユリウスの言葉に再び舌打ちをしてから、バルバナスは来た廊下へと(きびす)を返す。

「馬を用意しろ。アデライーデを連れ戻しにいく」

 遠のいていくその背に向かって、エッカルトは「仰せのままに」と深々頭を下げた。隣で見送っていたユリウスが、肩の力を抜いたように息をつく。

「っは、(がら)にもないことはするもんじゃないな」

 軽く肩をすくませ、懐からひと粒の守り石を取り出した。深い青だったそれは、くすんだ灰色になり果てている。軽く握り込んだだけで砂状に崩れて、床の上へさらさらとこぼれていった。

「まったく、これ、いくらすると思ってるんだ」

 守り石だった残骸を見て呆れたように首を振る。これがなかったら、今頃自分はどうなっていただろう。今さらながらに身震いが来る。

「しかし、アデライーデも難儀なこった」

 他人事のように言うユリウスを横目に、エッカルトは悲し気に目を細めた。

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