氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
何にせよ、今はイグナーツを探すしかない。苛立ちに出そうになるため息を深呼吸に替えて、カイは雪の街をひとり歩き出した。
(こんなことなら無理やりにでもルチアを監禁しとくんだったな)
今さら言っても仕方がないが、ルチアが赤毛であることは間違いないと、別の部下から報告が来ていた。情報収集のために普段から街で生活しているその部下は、人のいい世話好きなおばさんを演じてルチアへと近づいた。
ルチアは警戒心が強く、龍のあざの存在こそ確認はできなかったが、転寝をするルチアのかつらの下は鮮やかな赤毛だった。その報告があったからこそ、ハインリヒにもルチアの存在を告げたのだ。
何とかルチアの行方を追わなくては、事態は振り出しに戻ってしまう。
「ねえ、イグナーツ様、帰ってきてるでしょ?」
カイはこんがり亭の扉を開けると、厨房の奥にいたダンに声をかけた。イグナーツは戻ってくると、必ずここに顔を出す。
「これはカイ坊ちゃん、先日ぶりでやすな。旦那はルイーダの酒場ですぜ。とりあえず酒と女を補給するとすっ飛んでいきやした」
ダンは磨いていたグラスを棚に戻すと、カイに温めたミルクを差し出した。
「ルチアが消えたって聞いたんだけど?」
「ああ……カイ坊ちゃんもお聞きになりやしたか。あっしどもも急なことで驚いているんでさぁ」
「一体何があったの?」
カイはカップを包むように手に取った。じんわりとしたその熱は、冷えた指先をあたためていく。
「あっしとフィンが買い出しから戻ると、ルチア殿はすでにいなくなっておりやした。残っていたのはこの書置きひとつでやす」
差し出された紙は、カイが契約書としてルチアに渡した片割れだった。その裏側にルチアの文字で、アニサのいる病院から連絡があった旨が書かれている。
転院を勧められアニサとともに急遽そちらへ移動することになった。挨拶もできずも去ることを許してほしい。丁寧な文字でそう綴られていた。
「カイ坊ちゃんの運命の幼女殿でやしたのに……」
「あの日以来、音沙汰なしだったカイ坊ちゃんも悪いのよ」
厨房の奥の階段から、唇を尖らせながらフィンが降りてきた。角刈りマッチョその姿は、相変わらずのすけふりネグリジェだ。
「女はね、ほっとかれることがいちばんつらいのよん」
少し泣きはらしたような目元で拗ねたように言う。「書置きひとつでいなくなるなんてぇ」とダンの首筋にしがみついた。
「ルチア殿も落ち着いたらきっと連絡をくれるでやすよ」
その背をぽんぽんと叩きながら、ダンはやさしく抱きしめ返す。そんなふたりを横目に、カイは手にした書置きを懐へとしまった。
(こんなことなら無理やりにでもルチアを監禁しとくんだったな)
今さら言っても仕方がないが、ルチアが赤毛であることは間違いないと、別の部下から報告が来ていた。情報収集のために普段から街で生活しているその部下は、人のいい世話好きなおばさんを演じてルチアへと近づいた。
ルチアは警戒心が強く、龍のあざの存在こそ確認はできなかったが、転寝をするルチアのかつらの下は鮮やかな赤毛だった。その報告があったからこそ、ハインリヒにもルチアの存在を告げたのだ。
何とかルチアの行方を追わなくては、事態は振り出しに戻ってしまう。
「ねえ、イグナーツ様、帰ってきてるでしょ?」
カイはこんがり亭の扉を開けると、厨房の奥にいたダンに声をかけた。イグナーツは戻ってくると、必ずここに顔を出す。
「これはカイ坊ちゃん、先日ぶりでやすな。旦那はルイーダの酒場ですぜ。とりあえず酒と女を補給するとすっ飛んでいきやした」
ダンは磨いていたグラスを棚に戻すと、カイに温めたミルクを差し出した。
「ルチアが消えたって聞いたんだけど?」
「ああ……カイ坊ちゃんもお聞きになりやしたか。あっしどもも急なことで驚いているんでさぁ」
「一体何があったの?」
カイはカップを包むように手に取った。じんわりとしたその熱は、冷えた指先をあたためていく。
「あっしとフィンが買い出しから戻ると、ルチア殿はすでにいなくなっておりやした。残っていたのはこの書置きひとつでやす」
差し出された紙は、カイが契約書としてルチアに渡した片割れだった。その裏側にルチアの文字で、アニサのいる病院から連絡があった旨が書かれている。
転院を勧められアニサとともに急遽そちらへ移動することになった。挨拶もできずも去ることを許してほしい。丁寧な文字でそう綴られていた。
「カイ坊ちゃんの運命の幼女殿でやしたのに……」
「あの日以来、音沙汰なしだったカイ坊ちゃんも悪いのよ」
厨房の奥の階段から、唇を尖らせながらフィンが降りてきた。角刈りマッチョその姿は、相変わらずのすけふりネグリジェだ。
「女はね、ほっとかれることがいちばんつらいのよん」
少し泣きはらしたような目元で拗ねたように言う。「書置きひとつでいなくなるなんてぇ」とダンの首筋にしがみついた。
「ルチア殿も落ち着いたらきっと連絡をくれるでやすよ」
その背をぽんぽんと叩きながら、ダンはやさしく抱きしめ返す。そんなふたりを横目に、カイは手にした書置きを懐へとしまった。