氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 ひらひらと手を振ると、女たちは千鳥足で部屋を出て行こうとする。カイが自然な動作で扉を開けると、女たちはけらけらと笑いながら、カイの頬にも熱烈なキスを落として出ていった。
 笑顔のままふたりを見送ってから扉を閉めたカイは、酒臭さが残る口紅を自身の袖で無造作にふき取った。

「へっ、相変わらずの酒嫌いだな」

 イグナーツ自身は両頬にべったりと赤い口紅を残したまま、酒瓶へと手を伸ばす。それをさっと取り上げると、カイは届かないようにテーブルの(きわ)へと置いた。

「ルチアをどこにやったんですか?」

 ばん! とテーブルに手を着くと、イグナーツはそれを()けるように、いまだテーブルに上げていた足をおろした。

「なんだよ、(やぶ)から棒に」

 空になったグラスを片手で弄びながらへらりと笑う。その様子にルチアの置手紙を取り出して、カイはテーブルの上に広げて見せた。

「とぼけないでください。アニータ・スタン伯爵令嬢。ルチアの母親の正体は彼女でしょう?」

 その名にイグナーツが一瞬、真顔になった。金色の瞳がゆっくりと斜め上を向く。

「何のことだかわからねぇな」

 下手な口笛を吹くようなそのそぶりに、半眼となったカイは再びテーブルをバンと叩いた。

「分かっているんですか? ルチアの存在は、国の命運を左右するかもしれないんですよ!」

 真剣に言い(つの)るカイをちらりと見やり、イグナーツはだらしなく背もたれに背を預けた。そのままグラスをことりと置くと、その縁にゆっくり指を滑らせる。

「なあ、カイ。お前、王子の託宣の相手を探してるんだろう?」
 ぴんと弾くとグラスは不安定に揺れて、少しだけ奥へと移動した。

「だったら、無駄なことはやめとけやめとけ」
 ひらひら手を振って、イグナーツは上機嫌な様子で再びへらりと笑った。

「一体どういう意味です? イグナーツ様、あなたは何をどこまで知っているんですか?」
「さあな」

 身を乗り出して、イグナーツは端に置かれた酒瓶を手に取った。酒をグラスに注ぐと、すかさずカイがそれを取り上げる。

「お前母ちゃんみたいだな」
 おもしろそうに言ってイグナーツは、手にした瓶から残り少ない酒を直接あおった。

 ぶはぁと酒瓶から口を離したイグナーツを、心底嫌そうな目つきで見やる。それでもカイは努めて冷静に、その瞳を覗き込んだ。

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