氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 ジークヴァルトは公爵家にいる力ある者たちすべてに、自身の力を込めた守り石を持たせてある。異形に対して不測の事態があった時用だが、持ち歩かないことには何の役にも立ちはしない。

「いえ、失くしたりすると困るので……」
「失くしたらまたもらえばいいじゃない」

 そういうアデライーデはいつの間にやらどこかにやってしまって、心配するエマニュエル経由で幾度もジークヴァルトから配給を受けている。

「ジークヴァルト様から頂いたものなのに、そのような失礼はできません……!」

 エーミールの返事に、アデライーデは呆れたように首を振った。エーミールの弟への心酔ぶりは、姉としてちょっと気持ちが悪いものがある。

「とりあえずどうしようかしら?」

 アデライーデのため息に、エーミールは申し訳なさそうに目を伏せた。

「この部屋は何年も使っていません。ご不満かもしれませんが、今日はこのままここでお休みください」
「悪いわね。じゃあ遠慮なくそうさせてもらうわ」

 ずっと使っていないとはいえ、自分の寝台で眠ることにアデライーデは何とも思っていないようだ。そのことに小さく傷つきながらも、エーミールは仕方なくその格好のまま部屋を出た。

 適当な客室に入り、部屋着だけでも持ってくるべきだったと後悔したが、時すでに遅しのことだった。使用人を呼ぶ気にもなれず、なんとか着られそうなものを探し当てた。
 ぼふりと寝台に背を沈ませるが、興奮した神経は眠りを誘うにはほど遠い。時計を見ると、日付が変わる少し前くらいの時刻だった。

(アデライーデ様がお眠りになっていなくてよかった……)

 もしも寝台で深い眠りに就かれていたら、その布団をはぎ取り何者かとあの肢体にのしかかっていたかもしれない。

(駄目だ)

 余計に興奮してきてしまった体をがばりと起こす。先ほどよりも苛々したまま、その部屋を出ていった。あてどもなく屋敷内をさ迷う。もともと人の気配がしない屋敷だが、深夜の薄暗い廊下はそれに輪をかけている。

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