氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 フーゲンベルク家のあの騒がしさが日々煩わしく感じていたが、改めてこの家に帰ってくると、この異様な静けさに叫びだしたくなる衝動が襲ってくる。

 苛立ったように息を吐くと、ぶつくさと誰かが何かを言っている声が聞こえて来た。足音を忍ばせて、そちらへと向かう。
 王城の騎士服を着た男が、廊下のガラス戸をぺたぺたと触りながら、しきりに何かをつぶやいている。

「……ったく、どこかから外に出られんもんかな」
「おい、貴様、そこで何をしている?」

 ぱっと顔を上げた騎士が、振り返ってたれた目を見開いた。あの顔には見覚えがある。宰相であるブラル伯爵にそっくりということは、年の頃からみて長男のニコラウス・ブラルだろう。

「ニコラウス・ブラルだな? 伯爵家の人間がこんな時間に何用だ」
「うわ! グレーデン家の貴公子に名前を覚えてもらえてるなんて……!」

 感動したように浮ついた声を上げたニコラウスを、エーミールがぎろりと睨みつけた。ニコラウスは慌てて背筋を正す。

「王兄殿下の命で王城より異形の調査に参りました。ウルリーケ・グレーデン様の許可もいただいておりますっ」
「こんな深夜にか?」
「いえ、明日までに調査を終わらせろとのお達しでして」

 困ったようなその言葉に、エーミールはすべてを察して息を吐いた。

「手伝ってやる」
「はい?」
「だから手伝ってやると言っているんだ」

 どうせ今夜は眠れそうもない。何かやれることがあるのなら渡りに船だ。
 それに本来ならば侯爵家当主であるエメリヒがしきる所を、祖母がしゃしゃり出てきたのだろう。どうせあの父のことだ。面倒くさくて顔も出さなかったに違いない。それを思うと、ニコラウスにも同情の念が湧いてくる。

「グレーデンの色男、その名の通り……!」

 たれ目をキラキラさせているニコラウスを、エーミールは訝し気に睨みつけた。

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