氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「あの……カイ様……申し訳ありません」
「ん? どうしてリーゼロッテ嬢が謝るの?」
「……わたくしとこちらにいらっしゃらなければ、カイ様は不快な目に合わずに済みましたでしょう……?」
「はは、あのくらいどうってことないよ。グレーデン殿のアレは、時候の挨拶みたいなもんでしょ」

 エーミールは相容(あいい)れないものはすべて否定し、決して認めない性格だ。そして思ったことをすぐ口にする。言い換えれば嘘のつけない素直な人間ということだ。
 笑顔の仮面をはりつけて、腹の中では何を考えているか分からないような人間よりは、むしろ好感が持てるというものだろう。カイにしてみれば、マテアスのような人間の方が、よほど油断ならない要注意人物だ。

「いえ、デルプフェルト様、こちらの不手際(ふてぎわ)で不愉快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ありませんでした」
 エマニュエルが再び深く頭を下げた。

「あー、いや、ホント気にしてないから」

 カイは困ったようにエマニュエルの手を取った。そのまま手を引いてエマニュエルの顔を上げさせる。その流れでエマニュエルの手に、当たり前のように自身の唇を押し当てた。

「それにしても、先ほどの子爵夫人の叱責(しっせき)……思わず心を奪われてしまいました」
「まあ、デルプフェルト様は、強気な女がお好みですか?」
「あなたのような美しい方になら、ぜひにも(しか)られたいものです」

(か、カイ様がチャラ男になった……)

 ほほほ、はははと見つめ合うふたりを前に、リーゼロッテのカイへの評価がダダ下がったのは言うまでもなかった。

 その後、気を取りなおした一行はリーゼロッテの部屋の前に到着した。リーゼロッテが部屋の中へカイを(いざな)うと、カイは少し困った顔をする。

「いや、オレはここで待ってるよ」
「ですが、カイ様を廊下で待たせるなどできませんわ……」

 それでもカイは、(かたく)なに部屋には入ろうとはしなかった。
 ジークヴァルトの不在の(すき)に、リーゼロッテの自室に入ったなどと知れたら、さすがのカイも無傷ではいられなさそうだ。

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