氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「ジークヴァルト様は本当におやさしい方よ。さっきも話したように、わたくしね、異形を(はら)う力は持っているの。だけれど、それがうまく使いこなせなくて、いつもジークヴァルト様にご迷惑ばかりおかけしてしまって……」

 きゅっと唇をかみしめる。昨日の裏庭での出来事も、途中で記憶が途絶えている。自分の体から抑えきれないほどの力があふれ出たところまでは覚えているが、今朝、気づいたら公爵家のいつものベッドの上だった。
 エラにクッキーを食べさせてもらいながら目覚めたと言うことは、また力を使い果たして倒れてしまったのだろう。

 あの後、ジョンとカークがどうなったのか。すぐにでもあの裏庭に行って確かめたい。そうは思うが今の自分では、ひとりでこの部屋を出ることすら、ジークヴァルトの負担になってしまう。

「お嬢様……」

 そのときリーゼロッテの肩に、ぽてりと何かが寄りかかった。座るソファの上、並ぶように横に置かれていた大きなクマの縫いぐるみだ。

「アルフレート……あなたも慰めてくれているの?」

 毛むくじゃらなもふもふに体を預けるように沈み込む。この縫いぐるみは、貴族街に行ったときに雑貨屋で売られていたものだ。

 あの日、ジークヴァルトが買ってくれたのは、今もそこの文机(ふづくえ)に並んでいるひとそろいのステーショナリーグッズだ。だが、後日この部屋に通されたときに目に飛び込んできたのは、リーゼロッテがちょっといいなと思った品々だった。

 このクマの縫いぐるみをはじめ、いちばん気に入ったオルゴール、中には軽く手に取っただけの物もいくつかあった。だが、並んでいるのはどれもリーゼロッテが心惹かれたものばかりだ。
 買ったすべてはジークヴァルトが指定したのだと、マテアスがこっそり教えてくれた。雑貨屋で黙って後ろをついて回っていたジークヴァルトは、自分の様子をちゃんと見ていたということだろう。

 大きなクマの縫いぐるみを見て、リーゼロッテは驚きのあまり言葉を失った。次いで込み上げてきたのは純粋なよろこびだった。あまりにもうれしくて、大きな縫いぐるみを高々と持ち上げて、部屋の中をくるくると回ってしまったほどだ。

 そのクマの縫いぐるみに、リーゼロッテはアルフレートと名前を付けた。時々、アルフレートと一緒に眠っていることは、ジークヴァルトには内緒にしてもらっている。

「あまり泣いているとアルフレートに笑われてしまうわね」

 つぶらな瞳と見つめ合って、リーゼロッテは涙が残った瞳を細めてふふと笑った。その様子にエラも頬を緩ませる。

「そろそろお支度をはじめましょうか」

 エラの言葉に頷いた。午後いちばんでジークヴァルトがこの部屋に来ることになっている。

 昨日、あの後何があったのか、きちんと話をしてくれるだろうか。そう不安に思いつつ、アルフレートをソファの上に残して、リーゼロッテは静かに立ち上がった。

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