氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 だが、ジークヴァルトは廊下へ続く扉に向けて声をかけた。次の瞬間、扉を抜けてカークがその厳つい姿をあらわした。

「カーク……!」

 思わずカークの元へと駆け寄った。見上げるカークはいつも通りだ。だがその思念は、いつもよりもずっとクリアに感じられた。

 ジョンの記憶の中で、カークはオクタヴィアと愛しあっていた。雨が降りしきる裏庭にひとり立たされたカークは、そのときに強い思いとしてあの場に焼き付いたのだろう。

「カーク……あなたが守りたかったものはオクタヴィアだったのね……」

 その言葉にカークは不思議そうに首を傾けた。そしてゆっくりと首を振る。

 ――守りたい

 カークの思念が伝わってくる。あたたかなそれは、まっすぐにリーゼロッテへと向けられている。いつも感じていたふてくされた感情は、そこに微塵も感じられなかった。

『カークはただの思念だからね。リーゼロッテの力に触れて、思いが純化したんじゃない?』
「ひょあっ」

 前触れなく横にあらわれたジークハルトを見上げようとした瞬間、いきなり大きな腕に抱え上げられた。高くなった視界に驚き、おもわずその首にしがみつく。

「ヴァルト様、突然抱き上げるのはやめてくださいませ」
「非常事態だ」

 ふいと顔をそむけると、ジークヴァルトは守護者を睨みつける。

『やだなぁ、もう何もしないって。はいはい、邪魔者は退散するよ。ほら、カークも行った行った』

 カークの背を押すようにジークハルトはそのままドアからすり抜けて出て行ってしまった。それをしり目に、ジークヴァルトはリーゼロッテをソファへと運ぶ。そのまま当たり前のように、リーゼロッテを膝に乗せて抱え込んできた。

「あの、ヴァルト様」
「なんだ?」
「ソファは十分に広いですから」

 となりの空いたスペースを見やる。ジークヴァルトは「却下だ」と憮然と答えると、リーゼロッテの髪をそっと梳きだした。なぞる指先から感じる力に、思わずリーゼロッテは身をよじった。

< 564 / 684 >

この作品をシェア

pagetop