氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
     ◇
 ふぁ、とあくびを噛み殺しながら、ニコラウスは馬を走らせていた。目の前を行く馬車にはアデライーデが乗っている。その横を馬で並走しているのがエーミールだ。

(グレーデン家の貴公子は手綱さばきも様になってるなぁ)

 あそこまで完璧な男前だと、もはや敵愾心も抱かない。顔良し、身分良し、能力高しだ。

 エーミールの協力もあって、グレーデン家の調査も無事に終えることができた。これで調書もなんとか形になるだろう。
 思ったより調査が早く終わったため、これ幸いと明け方に仮眠を取ろうとしたニコラウスは、エーミールとの剣の手合わせに付き合わされた。結局は寝られずじまいで帰還となった。

(話には聞いてはいたが、エーミール様の剣裁き、ほんとやばかったな)

 あの細身から繰り出される鋭い剣先に、幾度も冷や冷やさせられた。寝不足もあったが、それはエーミールも同じ条件だ。初めは上位貴族を傷つけないよう手を抜いていたニコラウスは、気づくと本気モードで手合わせをしていた。そのくらいでないと、確実に怪我をしていたことだろう。

(エーミール様、騎士団に入ってくれないかなぁ)

 騎士としての腕も立ち、なによりもエーミールは力ある者だ。アデライーデの親戚でもあるし、自分の負担が相当軽くなるに違いない。

 そんなことを思いながら、再びあくびを噛み殺す。気を抜くと居眠りをして落馬してしまいそうだ。

(そんなことになったら、アデライーデに大笑いされるな)

 笑顔でいてくれるなら、それでもいいか。そんな馬鹿な考えがよぎるのも、きっと寝不足のせいに違いない。

 グレーデン家から、なぜだかニコラウスもフーゲンベルク家に向かうことになった。そのまま王城か砦の城塞へ直帰するのだろうと思っていたので、少しばかり驚いたのだが、公爵家で異形の調査に手間取っているのかもしれない。そう思うとニコラウスは手綱と共にその身を引き締めた。

 他にも気にかかることがある。最近のアデライーデの態度は、いつも以上におかしく感じられた。バルバナスに対してやたらと反抗的だ。

(公爵家で、面倒なことが起きないといいけどな)

 出そうになったため息は、結局は大きなあくびとなった。馬が切る風の寒さで、目じりの涙はあっという間に氷と化した。

< 566 / 684 >

この作品をシェア

pagetop