氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「エーミール、今日は勘弁してやって。ねえ、ニコ。あなた今度の新年を祝う夜会で警護担当なんでしょう?」
「ああ、おかげで夜会に出なくて済んだ。そうだ! エーミール様にひとつお願いが!」

 不覚にも、いきなりニコラウスに両手を取られたエーミールは、やはり気持ちの悪い男だと眉をひそめた。

「オレ、一応長男なんすけど正妻の子供じゃなくて、家督は妹に譲ることになっているんですよ」
「ああ、そんな話は聞いたことがあるな」
「家を継げないことは別にいいんですよ。けど、妹が……」

 そこで言葉を切ったニコラウスが、アデライーデの顔を見やった。

「妹が?」

 アデライーデが小首をかしげると、ニコラウスがこの世の終わりのような顔をした。

「フーゲンベルク公爵に嫁ぐって言ってきかないんだよ! どうしたらいいと思う!? アデライーデ!」
「どうしたらって……ジークヴァルトにはリーゼロッテがいるし」
「じゃあ、公爵と妖精姫との婚約話は本当なんだな?」
「ええ、二人の婚姻は龍から受けた託宣だし」
「え? マジで!?」

 落ち着きなく表情を変えるニコラウスを、エーミールは苛立ったように睨みつけた。

「それで、わたしに何をしろというんだ?」
「いや、何かあった時、妹の暴走を止めてほしくて……」
「そんなもの兄であるお前の役目だろう」
「それができれば苦労がないんすよ……妹に託宣の存在は話せないし、親父が普段から甘やかしすぎて、何をしでかすか心配で心配で」

 うなだれるニコラウスを前に、エーミールとアデライーデは目を見合わせた。

「それでどうしてわたしに頼む。お前が横で見張っていれば済むことだ」
「妹の奴、オレになんとか家督を継がせようと、爵位狙いの令嬢を次から次に送り込んでくるんですよ! 白の夜会でも、それでひどい目にあって……」
「それくらいあしらえなくてどうする」
「社交界きってのモテ男にはできても、オレにはそんな器用なことできないんすよ! それに、妹は本当に猪突猛進な性格で……ああ、イザベラが公爵に突撃していく様が目に浮かぶ……!」

「ジークヴァルトに任せておけば大丈夫よ」
 アデライーデが興味なさげに言う。

「リーゼロッテへの執着ぶりを見れば、それ以上どうこうしようなんて気が起きるわけないわ」
「……妖精姫、むちゃくちゃ可愛かったもんなぁ」

 でへへとにやけているニコラウスは、限りなく締まりのない顔だ。アデライーデは半眼となり、ニコラウスを冷たく見やった。

「言っとくけど、リーゼロッテに変な気は起こさないことね。ジークヴァルトに殺されてもいいならかまわないけど」
「かまう! めっちゃかまいます!」

 青くなってぶんぶんと首を振るニコラウスに、アデライーデは人の悪い笑みを向けた。

「ねぇ、ニコ。そんなに妹が心配なら、わたしにいい考えがあるわ」

 にやりと笑うアデライーデを前に、するのはもはや嫌な予感ばかりだ。エーミールは、同様に感じているであろうニコラウスと、思わずその目を合わせた。

< 579 / 684 >

この作品をシェア

pagetop