氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
◇
「ええ? わたくしたちがファーストダンスを?」
夜会の開始よりも数時間早く王城へ到着したジークヴァルトは、リーゼロッテと共に豪華な控え室へと通されていた。
リーゼロッテの桜色の唇を見つめながら、ああ、と短く返事をする。あの柔らかさを自分は知ってしまった。いや、思い出してしまったと言うべきなのか。
「どうしてわたくしとヴァルト様なのですか? この夜会は王家の主催で行われるのですよね」
動揺したように見上げてくるリーゼロッテの唇が、可愛らしく抗議を伝えてくる。
今すぐあの唇に口づけたい。小さな唇を押し開き、自分よりも薄い舌を探し当てて、逃がさないよう絡めとりたい。彼女のすべてにこの舌を這わせ、自分で埋め尽くしてしまいたい。
「ジークヴァルト様?」
至近距離で覗き込まれる。大きな緑の瞳が飛びこんできて、ジークヴァルトははっと我に返った。
ここは王城の一室だ。それも龍の加護が厚く、異形が近寄れぬほどの守りが施されている。言うなれば、この部屋で公爵家の呪いが発動することはない。自分の心根次第で、リーゼロッテをどうにでもしてしまえる、とても危険な場所だった。
戒めるように、己の守護者がしでかした日の事を思い出す。彼女を二度と泣かせるわけにはいかない。そう胸に誓って今日まで堪えてきたはずだ。
リーゼロッテへと向けられるこの衝動の正体は何なのか。ジークヴァルトはいまだにそれがよく分からない。彼女は龍が決めた託宣の相手だ。口づけくらいしたとして、どうということはないだろう。
何しろ父と母は日常いたる所で口づけを交わしていた。夫婦とはそんなものだというのがジークヴァルトの認識だ。
では、なぜそうすることにためらいを覚えるのか。それはただ単に拒絶が怖いからだ。もしあの日のようにリーゼロッテに泣き叫ばれでもしたら、自分は一体どうなってしまうのだろうか。
長いこと忘れ去られていた喜怒哀楽を、思い出させてくれたのは、他でもないリーゼロッテだった。そして、失うことへの恐怖心を再び呼び起こしたのも、間違いなく彼女の存在だ。
ぐっと唇を引き結んで、ジークヴァルトはリーゼロッテから目をそらした。
「ファーストダンスを踊るのは、オレたちだけではない。王と王妃、そしてハインリヒもだ」
「王子殿下が?」
リーゼロッテが不思議そうに問う。
「ですが、王子殿下は女性に触れることができないのですよね。パートナーはどなたがお勤めになるのですか?」
「それは……会えば分かる」
歯切れ悪くジークヴァルトがそう言った時、部屋に迎えがやってきた。ふたりは夜会の会場へと移動した。
「ええ? わたくしたちがファーストダンスを?」
夜会の開始よりも数時間早く王城へ到着したジークヴァルトは、リーゼロッテと共に豪華な控え室へと通されていた。
リーゼロッテの桜色の唇を見つめながら、ああ、と短く返事をする。あの柔らかさを自分は知ってしまった。いや、思い出してしまったと言うべきなのか。
「どうしてわたくしとヴァルト様なのですか? この夜会は王家の主催で行われるのですよね」
動揺したように見上げてくるリーゼロッテの唇が、可愛らしく抗議を伝えてくる。
今すぐあの唇に口づけたい。小さな唇を押し開き、自分よりも薄い舌を探し当てて、逃がさないよう絡めとりたい。彼女のすべてにこの舌を這わせ、自分で埋め尽くしてしまいたい。
「ジークヴァルト様?」
至近距離で覗き込まれる。大きな緑の瞳が飛びこんできて、ジークヴァルトははっと我に返った。
ここは王城の一室だ。それも龍の加護が厚く、異形が近寄れぬほどの守りが施されている。言うなれば、この部屋で公爵家の呪いが発動することはない。自分の心根次第で、リーゼロッテをどうにでもしてしまえる、とても危険な場所だった。
戒めるように、己の守護者がしでかした日の事を思い出す。彼女を二度と泣かせるわけにはいかない。そう胸に誓って今日まで堪えてきたはずだ。
リーゼロッテへと向けられるこの衝動の正体は何なのか。ジークヴァルトはいまだにそれがよく分からない。彼女は龍が決めた託宣の相手だ。口づけくらいしたとして、どうということはないだろう。
何しろ父と母は日常いたる所で口づけを交わしていた。夫婦とはそんなものだというのがジークヴァルトの認識だ。
では、なぜそうすることにためらいを覚えるのか。それはただ単に拒絶が怖いからだ。もしあの日のようにリーゼロッテに泣き叫ばれでもしたら、自分は一体どうなってしまうのだろうか。
長いこと忘れ去られていた喜怒哀楽を、思い出させてくれたのは、他でもないリーゼロッテだった。そして、失うことへの恐怖心を再び呼び起こしたのも、間違いなく彼女の存在だ。
ぐっと唇を引き結んで、ジークヴァルトはリーゼロッテから目をそらした。
「ファーストダンスを踊るのは、オレたちだけではない。王と王妃、そしてハインリヒもだ」
「王子殿下が?」
リーゼロッテが不思議そうに問う。
「ですが、王子殿下は女性に触れることができないのですよね。パートナーはどなたがお勤めになるのですか?」
「それは……会えば分かる」
歯切れ悪くジークヴァルトがそう言った時、部屋に迎えがやってきた。ふたりは夜会の会場へと移動した。