氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 開き直って、これ以上はないというくらいの渾身の淑女の笑みを作った。夜会で抱き上げられて、ニコニコ笑っている令嬢など前代未聞だろう。こうなったらジークヴァルトも道連れだ。王族の命令ならば、恥もまるごと一蓮托生ということだ。
 甘えるようにぎゅうっとしがみつく。しあわせそうな笑みを作り、目が合った貴族には思いっきり微笑み返してみせた。

 笑顔を向けた貴族は、みな示し合わせたようにさっと目をそらしていく。ジークヴァルトはジークヴァルトで、見せつけるようにあてどもなく会場の中を練り歩くものだから、珍獣を見るような視線に次から次へとさらされた。

 だがそんな痛い視線にも次第に慣れてくる。気分がおかしな方向にハイになり、最後の方はなんだか楽しくなってきてしまった。

(出てるのはアドレナリンというよりエンドルフィンかも……)

 どうせ目をそらされるならばと、笑顔を大盤振る舞いしながら、そんなことを思う。しかし、みなが目をそらすのは、リーゼロッテが微笑みかけた者たちを、ジークヴァルトが眼光鋭く睨みつけるからだ。

 リーゼロッテのこの笑顔は、実のところ淑女の鏡だと大絶賛を浴びていた。のちに淑女教育のお手本となり、リーゼロッテスマイルとして後世まで語り継がれるなど、本人は知る由もない。

 行く先に見知った者たちの姿を認めると、珍獣行脚(あんぎゃ)もようやく終わりを告げた。フーゴとクリスタの前で降ろされて、リーゼロッテはようやく息をつく。

「やあ、リーゼロッテ。元気そうで何よりだよ」
「ふふ、ジークヴァルト様と仲良しさんで安心したわ」
「お義父様、お義母様……その、今日はお会いできてうれしいですわ」

 行脚への突っ込みがないため、かえって返答に困ってしまった。ニコニコ顔の両親の後ろにジルケとアンネマリーの姿が見える。

「アンネマリー! ジルケ伯母様も」

 小走りで駆け寄るも、ここは夜会の会場だ。いつものようにハグし合うわけにはいかないので、リーゼロッテはふたりの前で淑女の礼をとった。

「ジルケ伯母様、ご無沙汰しております。アンネマリーも会えてうれしいわ」
「リーゼロッテも元気そうね」

 アンネマリーは少し複雑そうな顔をして微笑んだ。

「アンネマリー、リーゼロッテ、ほらふたりで並んで見せて」

 ジルケに促され、アンネマリーの隣に行く。

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