氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
(それにしても遺伝ってすごいわね)

 ブラル伯爵とニコラウス・イザベラ兄妹が並ぶと圧巻だ。目のたれ具合、鼻の位置、口の形に至るまで、レプリカのごとくそっくりだった。
 笑ってはいけないと思いつつ、口元が緩んでしまう。リーゼロッテは唇をムニムニさせながら、このままでは笑いかねないと三人からそっと目をそらした。

 視線を感じてそちらを見上げると、ジークヴァルトの口元もなぜかムニムニしている。ジークヴァルトの鉄面皮をもってしても、三人の顔面遺伝子には勝てなかったのか。そんな風に思ったリーゼロッテだが、その実ジークヴァルトはリーゼロッテの唇に目がくぎ付けになっていただけだ。

「公爵、実はフーゲンベルク領で採れる鉱物について詳しく話が聞きたいと申している者がおりまして……。いやはや、公爵はなかなかこういった社交の場にお出にならないので、この機会を逃したくない人間が山ほどおるのですよ。わたしの顔を立てて、少しばかりお時間を頂けませんかな?」

 打って変わって宰相の顔となったブラル伯爵が言った。ジークヴァルトは眉間にしわを寄せてから、リーゼロッテの顔をじっと見やる。

「絶対にこの場から離れるなよ」
「はい、ご安心くださいませ」

 ここにはダーミッシュ伯爵夫妻をはじめ、エラやエーミール、ヨハンなど、無知なる者と力ある者ばかりが勢ぞろいだ。そんな者たちに囲まれているリーゼロッテが、異形に襲われる心配はまずないと言っていい。

「イザベラ、お前はしばらくニコラウスと一緒にいなさい。絶対にひとりになっては駄目だよ」

 その言葉に、ニコラウスが嫌そうな顔になる。
 ジークヴァルトもすぐに戻ると言い残して、ブラル伯爵と共にこの場を離れていった。

「ねえ、あなた、お兄様の恋人?」
 父親がいなくなるや否や、イザベラがエラに話しかけた。

「え? いいえ、違います」
「だってあなた、今日はお兄様のパートナーなんでしょう? いいじゃない、お兄様と結婚すれば伯爵夫人になれるのよ。もうあなたでいいから、お兄様と結婚しなさいな」
「イザベラ、お前、エラ嬢になんて失礼な物言いを」
「お兄様は黙ってて。さっさと爵位を継いでくれればそれでいいのに、お兄様が不甲斐ないからこうやって協力してあげているんでしょう」

 たれ目とたれ目がにらみ合う。周囲は困惑気味にイザベラの言動を見守っていた。

「何だか賑やかね」
「アデライーデお姉様!」

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