氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 アデライーデは優雅に騎士の礼を取り、リーゼロッテへと手を差し伸べた。

「美しいお嬢様、わたしと一曲踊っていただけますか?」

 格好良すぎて眩暈がしてくる。リーゼロッテはぽーっとなって、気づくとその手に自らの手を重ねていた。

「エラはニコラウスと来なさい。せっかく夜会に来たのだから楽しみましょう」

 そう言ってアデライーデは、リーゼロッテをダンスフロアへと連れて行ってしまう。リーゼロッテの踊る姿を間近で見たいエラと、妹の元を離れたいニコラウスの利害が一致する。顔を見合わせたふたりは、頷き合って手と手を取った。

「イザベラはここで待っていろよ。ダーミッシュ伯爵、申し訳ありませんがしばらく妹の事をよろしくお願いします」
 ニコラウスはそれだけ言うと、エラを連れてフロアへ向かっていった。

 その背中をあっけにとられて見ていたエーミールの腕を、エマニュエルがぐいとひっぱった。

「エーミール様、わたしたちも行きますよ」
「待て、どうしてわたしがお前と……」
「リーゼロッテ様の元を離れたとあっては、旦那様に示しがつきませんわ。四の五の言わずにエスコートなさってください」

 エマニュエルの剣幕に押されて、エーミールもその場を離れていく。

「ははは、若い人たちは元気でいいね」
「そうですわね、あなた」

 ダーミッシュ夫妻が寄り添いながらのんびりと言う。その横でぽつんと取り残されていたヨハンが、同じく呆然としてたたずんでいるイザベラをちらりと見やった。その青ざめた横顔に、おずおずと声をかける。

「あの……イザベラ様、よろしければわたしと一曲、踊っ……」
「いやよ!」

 言い終わる前に即答される。イザベラは睨みつけるようにリーゼロッテの動きを目で追っていた。

「はは……ですよねぇ……」

 若干涙目のヨハンの後方で、アンネマリーは静かにその様子を見やっていた。

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