氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「おふたりはますますセレスティーヌ様に似てきたようだ……それに引き換え王には似ても似つかぬのはやはり……」

 前王妃であるセレスティーヌの不義を疑う下卑(げび)た噂がいまだに(ささや)かれる中、儀式は粛々(しゅくしゅく)と進められていった。

 祭壇の脇に控えていた神官のひとりが、青い布に包まれた青銅の鏡を大仰(おおぎょう)な足取りで運んでくる。でっぷりとした体に神官服を(まと)い、その手指はその場に似つかわしくないジャラジャラとした装飾(そうしょく)で飾られている。

 その神官はクリスティーナ王女の前まで歩を進めると、手にした鏡を王女に差し出した。その鏡を王女は包まれた布ごと、優雅な手つきで神官から受け取った。
 受け取った鏡を、王女は祭壇の前にいるイジドーラ王妃の前まで運んでいく。王妃の一歩手前までやってくると、王女は(ひざまず)いて鏡を(かか)(うやうや)しく王妃に差し出した。

 王女の右手につけられたハンドチェーンの飾りがしゃらりと揺れる。手首の腕輪から伸びた幾重(いくえ)もの繊細(せんさい)なチェーンが王女の手の甲を覆い、中指につけられた指輪へと向かっている。そのチェーンが放つ美しい(きら)めきに、その場にいた夫人たちは、ほぉ……と感嘆のため息をついた。

 差し出された鏡を今度は王妃が手に取り、ゆっくりと祭壇へと向かって行く。祭られている青龍の像を見上げ、イジドーラ王妃は美しく優雅な動きでその鏡を祭壇(さいだん)へと奉納(ほうのう)した。

 この鏡面の裏は、(りゅう)()と呼ばれる穀物のレリーフがなされている。五穀豊穣の象徴ともいえるこの神鏡を青龍に捧げることで、これまでの加護を感謝するとともに、来年の豊作を祈願するのだ。
 鏡を奉納し終えると静かな足取りで、王妃は(もと)()た場所へと静かに戻っていった。

 次に、反対側の祭壇の脇から、老齢の神官がひと()りの(つるぎ)を持って、ハインリヒ王子へと歩を進めた。シンプルな神官服を着ただけの神官は、先ほどの(あぶら)ぎった神官と違って、どこか清貧(せいひん)な雰囲気を(まと)っている。

 青い布で包まれたその宝剣(ほうけん)を、ハインリヒ王子は両手で神官から受け取った。この剣は、来る(ふゆ)将軍(しょうぐん)に打ち勝ち、極寒(ごっかん)の冬を無事に過ごすための退魔(たいま)宝剣(ほうけん)とされている。

 剣を手にした王子がディートリヒ王の元へと進んで行く。王の前まで近づくと、王子は王女と同様に、跪いて宝剣を差し出すように掲げ持った。
 その剣を、ディートリヒ王が無言で受け取る。表情の見えない金色の瞳は、はるか遠く、見えない何かを見据(みす)えているかのようだ。

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