氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 その後続いたハインリヒ王子に、多くの貴族が追いすがろうと押し寄せた。
 下位の貴族は周囲の護衛のけん制もあってか早々に脱落していくが、侯爵家以上の何人かの貴族は、周囲を視線で威圧(いあつ)しつつ、堂々たる足取りでそちらへ向かって行った。

「王太子殿下……!」

 そう呼び止めるも、ハインリヒは冷たい表情のままこちらを振り向こうともしない。足早に出口へと向かう王子に、さらに追いすがろうとする者まで出始めた。

 すかさず近衛の騎士たちが、その者たちから守るように王子を取り囲んだ。ハインリヒ王子の一番近くで警護をしていたジークヴァルトが、強引に近づこうとした貴族に対して視線を向ける。

 娘が王妃の茶会に呼ばれたことのあるその貴族は、もしかしたら自分たちにもチャンスがあるのではと、大それた野心を抱く者の一人であった。
 狡猾(こうかつ)そうな顔つきの紳士と、その妻と思しきこれまた狡猾そうな夫人が、ギラギラした瞳でハインリヒ王子に近づこうとしている。自分たちは優遇(ゆうぐう)されてしかるべき、そんな思いを抱きながら。

 不意に目の前に立ちはだかった近衛騎士に、紳士は片眉を上げその人物を(にら)みあげた。自分の地位は騎士ごときに邪魔されていいものではない。

 しかし、紳士は次の瞬間、「ひぃっ」と小さな悲鳴を上げて、強引に()み込んでいたその足をすくませた。少し遅れて着いてきていたその妻が、(いぶか)()に夫の背中を後ろからぐいぐいと押してくる。

「あなた、早くしないと王太子殿下が」
「いや、待て、無理だ……」
「何が無理なものですか! こんなまたとないチャンスを無駄にするなんて!」

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