氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 濡れた個所が高級な絨毯に暗い影を作っている。早く拭かないとしみになってしまうかもしれない。アンネマリーがそう訴えるも、ハインリヒはお構いなしに口づけを深めてくる。

「そのうち自然に乾く」

 年代物の絨毯をそんなふうに扱っていいものだろうか。しかし、そんな懸念もすぐに溶かされてしまう。

 ハインリヒが後頭部に手を差し入れて、アンネマリーの龍のあざを指先で撫でていく。アンネマリーは耐え難い熱に包まれて、それだけで力が入らなくなってしまった。

「んん……ハインリヒ様」

 ハインリヒの片手が鎖骨から胸元に滑り落ちた。コンプレックを抱く大きすぎる胸に指がかすって、アンネマリーは思わずハインリヒの両肩を強く押し戻した。

 唇が僅かに離れ、紫の瞳と見つめ合う。息を荒げたまま、ハインリヒは苦しそうに顔を歪めた。
 かと思うとハインリヒはいきなりアンネマリーの膝裏をすくい上げ、その身を軽々と持ち上げた。驚きでその首筋にしがみつく。

 そのまま寝室へ足を踏み入れると、ハインリヒは無言のままアンネマリーを寝台の(ふち)へと座らせた。

「あ……」

 ハインリヒが何を望んでいるのかを理解して、アンネマリーは自分の軽率さを今さらながらに後悔した。ハインリヒにただ会いたい一心で、王妃に言われるがままここに来た。夜の時間にガウンひとつ羽織った格好で来たのだ。こんな状況にだってなり得ることくらい、簡単に分かりそうなものだった。

「……アンネマリー」

 横に座ったハインリヒに抱き寄せられ、耳元で熱く囁かれる。

「君のすべてをわたしのものにしたい……」

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