氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
     ◇
 頬を撫でるやさしい指の感触に、アンネマリーの意識は浮上した。ぼんやりと見上げるとハインリヒが自分の顔を覗き込んでいる。王太子の正装したその姿は凛々(りり)しくて、いつまでも見とれてしまう。

 夢うつつにその綺麗な紫の瞳を見つめていると、ハインリヒはやさしく口づけてきた。ちゅっちゅとついばむように唇に触れ、その心地よさに思わずうっとりとしてしまう。

「アンネマリーの今日の公務は取りやめにしておいたから」

 その台詞にアンネマリーの意識は一気に覚醒した。驚きに身を起しかけると、肩を押されてアンネマリーの頭は、再び柔らかい枕へと沈んでいく。

「わたしも手加減ができなくて夕べは無理をさせてしまった……今日はゆっくり休んでいて」

 そう言われて、昨晩のことがはっきり頭の中に蘇った。かっと頬に熱が集まり、アンネマリーはシーツを持ち上げて顔半分を思わず隠した。自分の寝起きの髪は爆発したようにもわもわになる。いつも侍女がふたりがかりでそれなりのさらさらヘアにしてくれるのだが、そんなこともあり、アンネマリーはさらに潜るようにしてシーツで顔を隠した。

「アンネマリー……」

 愛おしそうに名を呼ばれて、そっと顔を出す。すぐさま口を塞がれてアンネマリーは小さく吐息を漏らした。

「ああ、行きたくないな……」
 耳元でハインリヒが長いため息と共にぽつりと漏らす。

「公務をさぼりたいなど、生まれてこの方初めてだ」

 苦笑いしながら再びアンネマリーに口づける。ついばむような軽いキスが、次第に深いものへと変わっていく。

「王太子殿下? お支度はいかかがですか?」

 事務的な男の声と共に寝室の扉が叩かれた。あまりにも驚いて、アンネマリーの体がびくりとはねた。

「ああ、今行く。五分待て」

 顔を上げて扉に向けて返事をしたハインリヒは、横顔もその声音も、王太子然としたものだった。だがその手は、アンネマリーのいる寝台へとちゃっかりと潜り込んでいる。

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