氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「まあ!」

 子供たちをそっちのけで見つめ合う父母を前に、王女たちはあきれたように顔を見合わせる。クリスティーナとピッパはどちらからともなくくすりと笑い、うれしそうに仲睦(なかむつ)まじい両親を見上げた。

「恐れながら、ディートリヒ王……そろそろお時間でございます……」

 後ろに控えていた護衛の騎士が、遠慮がちに声をかける。ディートリヒは鷹揚(おうよう)(うなず)いてソファから立ち上がった。それに合わせて、イジドーラをはじめ、ふたりの王女も同時に立ち上がり居住(いず)まいを正す。

「行ってらっしゃいませ、お父様」
 王女たちが並んで礼を取る中、イジドーラはディートリヒの口づけをその頬に受けた。

「……テレーズお姉様もいらっしゃればいいのに」

 王が去った扉がぱたんと閉じられ、一瞬の静寂(せいじゃく)が訪れたときピッパがぽつりと言った。
 王族は家族と言えど、普段はみなで顔を合わせることもない。こういった機会でもなければ、ゆっくりと話すこともなかった。

 この場に第二王女のテレーズとハインリヒがいれば勢ぞろいと言えたが、テレーズは隣国(りんごく)の王族へと嫁いだため、ブラオエルシュタイン王家からはすでに(せき)を外されている。

「テレーズは隣国へお嫁に行ったのよ」
「でも、お会いしたいわ……。わたくしもアンネマリーみたいに、隣国に行けたらいいのに……」
「アンネマリー……クラッセン侯爵令嬢ね」

 クリスティーナが記憶をたどるように言った。少し前に、自分が住まう東宮(とうぐう)にピッパが遊びに来た時、やたらとその名前を聞いたことを思い出す。

「アンネマリーの話は、本当におもしろいのよ! 隣国のことやテレーズお姉様のお話もたくさんしてくれるし! ……テレーズお姉様にお会いできないのなら、わたくしアンネマリーに会いたいわ……」

 その時扉が開いて、(けわ)しい表情のハインリヒ王子が入ってきた。

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