氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 ふと我に返って見てみると、おめめきゅるんな小鬼たちが山盛りきゃっきゃと駆け回る光景が、眼前(がんぜん)のサロンに広がっていた。

「どうしたのではありません! あれほど旦那様のいない時は、力をお使いになってはなりませんと申し上げておりましたのに!」

 マテアスの困り眉がさらにハの字になっている。

「でも、わたくし浄化の力は使っていないわ。ほら、お腹がすいたり力が抜けたりもしていないでしょう?」

 内心では汗をかきつつ、ここはもうしらを切るしかないと、にっこりと満面の笑みをマテアスに向けた。目をそらしてはいけない。何もやましいことはしていないのだ。

「……仕方がありませんね。ですが、今日はお(しま)いになさってください。この件は旦那様に報告させていただきます。よろしいですね?」

 いつになく厳しい声で、マテアスが順番待ちをしていた小鬼たちをしっしと追い払う。(うら)みがましそうな雰囲気で、異形たちは蜘蛛(くも)の子を散らすように部屋の隅の方へ逃げていった。

「ごめんなさい、マテアス……忙しいのに手をわずらわせてしまって……」

 しゅんとしてうつむいた。その目はもう涙目になっている。それを見たマテアスが慌てたように、ソファに座るリーゼロッテの目の前で片膝をついた。

「とんでもございません! わたしこそきつい言い方をしてしまい、リーゼロッテ様に怖い思いをさせるなど……まことに申し訳ございません」
「マテアス……わたくし、わざとやったわけではないの……許してくれる……?」
「もちろんでございます! ああ、初めから怒っているわけではありませんので、許すも許さないもございませんが……」

 普段は丁寧(ていねい)物腰(ものごし)のマテアスがおろおろとしている。

(こういうとき、リーゼロッテって結構あざといわよね……)

 自分で自分に突っ込みを入れつつ、「ありがとう、マテアス」とリーゼロッテは潤んだ瞳ではにかんでみせた。
 片膝をついたままマテアスは相変わらずの糸目で固まったあと、下を向いて「くっ」と眉間に手を当てた。

「リーゼロッテ様……そのようなお顔は、ぜひとも旦那様に……」

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