氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 なぜか目の前で身悶(みもだ)えているマテアスに、リーゼロッテは不思議そうにこてんと首を傾けた。

「そうだぞ、マテアス! リーゼロッテ様は力をお使いになどなっていない!」

 驚いて振り向くと、入口でヨハンが怖い顔をして立っている。今日の護衛はヨハンだったようだ。

「ずっと見ていたが、リーゼロッテ様はただ小鬼にやさしく語りかけていただけだ! 何も悪いことはされていない!」
「ずっと見ていたのにこれをほっておいたのですか、あなた様は!」

 サロンの片隅に集まってこちらを見ているきゅるるん小鬼隊を指さしながら、マテアスは立ち上がって不遜(ふそん)な顔をヨハンに向けた。

「それに護衛は気づかれずに行うよう旦那様に言われておりますでしょう? どうして今、姿を現すのですか?」

 逆にマテアスに言いつのられて、ヨハンはうっとひるんだ。

「いや、それは……マテアスがリーゼロッテ様を泣かせていたから……」
「な、泣かせてなどいないでしょう! そんなことをしたらわたしは旦那様に殺されます!」
「いや、ちょっとお泣きになっていたぞ。あれはどう考えてもマテアスが悪い。マテアスからリーゼロッテ様をお守りするのも、立派な護衛の役目だ」
屁理屈(へりくつ)をこねないでください、ヨハン様!」

「あの、ふたりとも……」
「「はいっ!?」」

 ぐりんとふたりの男に勢いよく顔を向けられて、リーゼロッテはか細い声で言った。

喧嘩(けんか)は……良くないと思うの……」

 その瞳はやはり涙目だ。しかも、今にもこぼれ落ちそうな危険(きけん)水域(すいいき)に達している。

「「……り、リーゼロッテさまぁ!!」」

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