氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 十五の誕生日を迎えた夜、家族との祝いの席で初めて酒を口にしたリーゼロッテは、翌日、あらたまった顔のフーゴから禁酒令を言い渡された。
 いつもやさしく穏やかなフーゴが真剣に目をつり上げて言うものだから、昨夜、飲酒後に何か粗相(そそう)をしたのだろう。そう感じたリーゼロッテは、絶対にそれを順守(じゅんしゅ)しようと心に誓っていた。

(きっとわたし、酒癖(さけぐせ)が悪いんだわ……)

 飲んだ後の記憶が曖昧(あいまい)で、家族もその時のことを話したがらない。義弟(おとうと)のルカはしばらく目を合わせてくれなかったし、エラに聞いてもやさしく曖昧に微笑みを返されるだけだった。

 エッカルトがボトルをテーブルに置き、ジークヴァルトに何かを耳打ちをしてから、テーブルを離れていった。ジークヴァルトは一瞬、眉間にしわを寄せ、そのあとおもむろにグラスを手にした。
 視線でリーゼロッテもグラスを持つように促される。難しい顔のジークヴァルトを前に、緊張しながらリーゼロッテもそっとグラスを手に取った。

 テーブルの上に(かざ)られた豪華(ごうか)燭台(しょくだい)に、何本もの蝋燭(ろうそく)(とも)されている。その炎がふたりのグラスに映し出されて、幻想的にゆらめいた。

 しばらくジークヴァルトを(うかが)うも、グラスを手に取ってから何のリアクションもない。先に口をつけるわけにもいかず、リーゼロッテはじっとグラスの中で揺れる炎を見つめていた。

 だが、あまりにも長い沈黙に、上目遣いで隣に座るジークヴァルトの顔をそっと伺う。そこで、少し離れた壁際(かべぎわ)に立つエッカルトの咳払(せきばら)いが聞こえてきた。
 その咳払いにジークヴァルトは再び眉間にしわを寄せると、意を決したように口を開いた。

「……少し遅れたが、ダーミッシュ嬢」
「はい」
「…………」

 ジークヴァルトは口を真一文字(まいちもんじ)に引き結んで、それ以上口を開こうとしない。その場に再び奇妙な沈黙が訪れる。リーゼロッテがわずかに首をかしげると、グラスの果実水の表面がゆらりと揺れた。

 先ほどよりも強めな咳払いが聞こえてくると、ジークヴァルトの肩がわずかだがぴくりとはねた。

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