氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「ダーミッシュ嬢、少し遅れたが……」
「はい」

 リーゼロッテがそのまま待っていると、ジークヴァルトは先ほど以上に眉間にしわを寄せてようやく次の言葉を発した。

「成人、おめでとう」
「…………」

 今度はリーゼロッテが沈黙してしまった。一瞬何を言われたかわからなかったのだ。十秒ほどたってから、ようやく誕生日の祝いの言葉をもらったのだと理解した。
 そうだ、誕生日を迎えてもうすぐ二カ月は()とうとしている上、その間ジークヴァルトとは何度も顔を合わせているが、今言われた言葉は、確かに自分の成人を祝う言葉のはずだ。

「……ありがとうございます、ジークヴァルト様」
「ああ」

 ふたりはグラスを軽く傾けて、果実水に口をつけた。

 エッカルトの耳打ちは『気の()いた言葉で乾杯(かんぱい)を』というものだったのだが、ジークヴァルトには難易度(なんいど)が高すぎたらしい。当のエッカルトは、壁際でなぜだか涙ぐんでいる。

 一口飲んで、リーゼロッテはグラスの中の果実水を、ゆっくりと揺らしながらくるくる回した。

「ふふっ」
 自然と口元に笑みが浮かぶ。

「……なにがおかしい?」
「いえ、とてもうれしくて……」

 どんな贈り物より、今の言葉の方がうれしかった。例え、エッカルトに(うなが)されたものだとしても、いつも無駄口(むだぐち)をきかないジークヴァルトが、懸命に考えて言葉にしてくれたのだ。

 頬を染めて微笑むリーゼロッテに、「そうか」と言ってジークヴァルトはついと顔を逸らした。

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