さくらびと。 恋 番外編(3)
第2章 夏の忙しさ。
春の陽気もあっという間に過ぎ去り、じっとりとした夏の暑さが病院を包み込んでいた。
病棟は、患者さんの入退院の処理で連日慌ただしく、蕾も額に汗を滲ませながら、忙しく立ち働いていた。
外泊の準備や、退院に向けてのカンファレンスなど、やるべきことは山積している。
「はぁ......。もうちょっとで退院できるのに、ご家族との連絡がうまくいかないなんて......。」
蕾は、担当患者さんの退院支援会議の資料作成に頭を悩ませていた。患者さんの社会復帰をスムーズに進めるためには、家族との連携が不可欠だ。
しかし、ご家族の都合がなかなか合わず、調整に苦労していた。
「ここ、どう書けばいいのかな......。退院後の服薬管理について、もっと具体的に書かないと......。」
蕾が唸っていると、背後から声がかかった。
「桜井さん、どうかした?資料作成、難航してるみたいだけど。」
振り向くと、そこには有澤先生が立っていた。いつも穏やかな表情の彼が、心配そうに蕾を見つめている。
「あ、有澤先生。えっと、この患者さんの退院支援会議の資料で......。」
蕾が説明しようとすると、有澤先生は「なるほど」と頷き、蕾の隣に歩み寄った。
「僕の担当患者さんでもあるから、一緒に見ようか?分からない所とかあれば聞くよ。」
「えっ、いいんですか?ありがとうございます!」
蕾は、思わず声が上ずった。有澤先生が、自分の仕事ぶりを気にかけてくれている。
しかも、二人きりで資料を見てもらえるなんて、胸が高鳴らないわけがなかった。