さくらびと。 恋 番外編(3)
ある日、
患者さんの点滴準備を終え、ナースステーションに戻ろうとした蕾に、有澤先生が声をかけてきた。
「桜井さん。お疲れさまです。」
「あ、有澤先生、お疲れさまです。」
蕾は少し緊張しながら応じた。
有澤先生は、彼女の髪型にふと目を留めた。
「今日は、あれ、してないんだね。」
「え...?あれ、ですか?」
蕾は一瞬、何のことか分からず戸惑った。
有澤先生は、悪戯っぽく笑みを浮かべた。
「いや、なんでもないよ。いつも髪型、綺麗にされているなと思って。」
その言葉に、蕾の顔にほんのりと赤みが差した。
自分なんかの髪型に気づいてくれるなんて、と。
それに、こんな些細なことでドキドキしてしまう単純な自分に恥ずかしさを覚えた。
有澤先生は、そんな蕾の反応を面白そうに眺め、また静かに桜の方へと視線を戻した。
蕾は、有澤先生が自分に話しかけてくれたことに戸惑いながらも、胸の高鳴りを抑えきれずにいた。
この静かな時間は、一体何なのだろうか。
彼女の日常に、静かに、"有澤先生"というひとりの存在が自身の心に入り込んできていることを感じていた。