さくらびと。 恋 番外編(3)
第3章 冬、忘年会。
街はすっかり冬の装いとなり、精神科急性期病棟にも、年末特有の慌ただしさが訪れていた。
病棟はあわただしく、クリスマスツリーが飾られた待合室では看護師たちが忘年会の準備の会話を飛び交わせていた。
「今年のビンゴ大会の景品は何にするー?」
「去年のケーキ争奪戦、面白かったよね~」
「看護師長のカラオケ披露は絶対入れようよ!」
笑い声が響く廊下を歩きながら、蕾は小さく深呼吸した。
あの診察室の有澤先生との出来事から、一週間が過ぎていた。
しかし、蕾の心の中はまだ整理できていなかった。
忘年会の準備が進む中、桜井蕾と有澤先生の関係は、松村師長の忠告もあり、
公の場ではよそよそしいものとなっていた。
「桜井さん、今度の忘年会、二次会もあるみたいですよー。」
同僚の看護師が話しかけるのに、蕾は愛想笑いを浮かべたが、心は晴れなかった。
有澤先生は、そんな蕾の様子に気付いているのかいないのか、いつも通り穏やかに振る舞っていた。