さくらびと。 恋 番外編(3)



「桜井さん?ちょっとペース早いんじゃない?」




隣の吉岡さんが心配そうに言う。




でも蕾は軽く首を振っただけだった。



アルコールの力でこの苦しみから解放されたい—ーーそんな衝動に駆られている。


時間とともに会場の雰囲気も和らいでいった。






輪の中心にいた有澤先生が一瞬こちらを見て、蕾と目が合った。


慌てて視線を逸らす。





これでいいんだと言い聞かせる反面、寂しさが募ってゆく。







「(私もあの中に混ざれたらな……)」







でも今の立場では難しい。それに、あんな風に自然体で笑えない自分が情けなかった。









「ねぇねぇ、桜井さんって、有澤先生と仲良いですよね?」








不意に吉岡さんのが小声で話しかけてきた。驚いて顔を上げると、興味津々といった表情をしている。







「え?そんな事ないよ?」









必死に平静を装う蕾。






実際には微妙な距離感があるものの、他人から見れば親しそうに見えているのかもしれない。





それは嬉しい反面、複雑な気持ちだった。







「先生が来たときからよく話してたじゃないですか。噂になってた時とかもあったし」









「え、ああ……実際、そういうのはないんだけどね、、あははは…」








苦笑いしながら答える蕾。







あの頃の出来事は封印されていたはずなのに、時折こうやって蒸し返されることがある。





特に若い世代には単なる「おもしろいエピソード」として語られているようだった。








「(あれからどれくらい時間が経ったんだろう)」








< 42 / 101 >

この作品をシェア

pagetop