さくらびと。 恋 番外編(3)
「桜井さん?ちょっとペース早いんじゃない?」
隣の吉岡さんが心配そうに言う。
でも蕾は軽く首を振っただけだった。
アルコールの力でこの苦しみから解放されたい—ーーそんな衝動に駆られている。
時間とともに会場の雰囲気も和らいでいった。
輪の中心にいた有澤先生が一瞬こちらを見て、蕾と目が合った。
慌てて視線を逸らす。
これでいいんだと言い聞かせる反面、寂しさが募ってゆく。
「(私もあの中に混ざれたらな……)」
でも今の立場では難しい。それに、あんな風に自然体で笑えない自分が情けなかった。
「ねぇねぇ、桜井さんって、有澤先生と仲良いですよね?」
不意に吉岡さんのが小声で話しかけてきた。驚いて顔を上げると、興味津々といった表情をしている。
「え?そんな事ないよ?」
必死に平静を装う蕾。
実際には微妙な距離感があるものの、他人から見れば親しそうに見えているのかもしれない。
それは嬉しい反面、複雑な気持ちだった。
「先生が来たときからよく話してたじゃないですか。噂になってた時とかもあったし」
「え、ああ……実際、そういうのはないんだけどね、、あははは…」
苦笑いしながら答える蕾。
あの頃の出来事は封印されていたはずなのに、時折こうやって蒸し返されることがある。
特に若い世代には単なる「おもしろいエピソード」として語られているようだった。
「(あれからどれくらい時間が経ったんだろう)」