さくらびと。 恋 番外編(3)
第7章 冬、唇の温度。
病棟を飛び出した蕾の背中を見送る間もなく、有澤先生が医局からやってきた。
ナースステーションに漂う重苦しい空気に彼はすぐに気づいた。
「…何かあったんですか?」
板垣先生は苦虫を噛み潰したような表情で答えた。
「いや……桜井さんがミスを犯してね。少し厳しく指導したんだ」
「それだけじゃないですよね?」
有澤先生の声は低く鋭い。
板垣先生は言葉を詰まらせた。
「何か、違う話を……持ち出したんですか?」
「それは……」
ナースステーションに重苦しい沈黙が流れる。有澤先生と板垣先生の対峙に、周囲のスタッフは息を呑んで見守っていた。