さくらびと。 恋 番外編(3)
「だから……私にもこれから未来があるように、有澤先生にも未来があるんですよね。
私なんかが先生を縛っちゃいけないって思ったんです。
先生はこれから、たくさんの患者さんを救って、成長して立派な医師になります。」
有澤先生は黙ったまま。
彼の瞳に映るのは驚きと戸惑いと……悲しみが入り交じっていた。
「いっぱい悩んだんです。きっと人生でこの時しかないくらい、いっぱいいっぱい考えました。」
「それに……思ったんです。」
最後の一言は掠れるほど小さくなった。
「きっと亡くなった奥さんもそれを望んでるんだろうなって。」
「これも私の、勝手な思い込みですけどね…」
最後の一言を告げた瞬間、空気が変わるのを感じた。
有澤先生の表情が変わり、遠くを見るような眼差しになる。
「どう…して……」
静かな問いかけに、蕾は躊躇いながらも答える。
「だって……亡くなった奥さんはきっと、有澤先生の幸せを、一番に願うような素敵な方だったでしょうから。」