寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「ルカはツェツィーリア様の事、本気なのね」
「ですが婚約を申し込むとなりますと、簡単なお話ではないでしょうね」

 エラがため息交じりに言う。公爵家の令嬢ならば引く手数多(あまた)だろうし、下位の爵位の家に嫁ぐとなったら、家同士の利害が一致しなければ実現は難しい。貴族の婚姻とは本来、恋愛の果てになされるようなものではなかった。
 ダーミッシュ家は伯爵の地位にあるものの、片田舎の中堅貴族だ。最近でこそ商業が発展して豊かな領地を持つが、歴史ある公爵家と比べるとやはり見劣りすると言わざるを得ない。

「ルカは思いのほか頑固だから……。何が何でもお義父様を説得しそうだわ」
「そうでございますね」
「ツェツィーリア様が義妹になったらわたくしもうれしいわ」

 そのときリーゼロッテの紅茶に、ぽとりと花のつぼみが落ちてきた。エラとともに満開の木を見上げる。桜のような可憐な花は、しかし花びらが舞い散ることなく、その枝に堂々と咲き誇っている。
 次いで開いた花が落ちてきた。枝から落ちるにはまだまだ早そうな、五枚の花弁が開いた美しい咲き具合だ。

「ふふ、犯人はきっとあの小鳥ね」

 ふっくらした(すずめ)のような小さい鳥が、枝から枝へちょんちょんと跳ねている。時折花をついばみながら、その花弁を地面へと落としていく。

「花散らしの小鳥ね。ああやって花の蜜を吸っているのだそうよ」

 ジョンがいつも泣いていた木の根元を、いくつもの花が飾っている。ジョンは天で笑顔を取り戻しただろうか。そんなことを思って青空を見上げたリーゼロッテの髪を、春の風がふわりと攫っていった。

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