寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
     ◇
「明日、リーゼロッテお姉様も、ルカと一緒に帰ってしまうのでしょう?」

 同じ寝台で横になりながら、ツェツィーリアがぽつりと聞いてくる。ルカがやって来てからも、ツェツィーリアはこうしてふたりで眠りたがった。

 枕に頭を沈めたまま、向かい合って見つめ合う。不安そうなツェツィーリアの頬にかかる髪を、リーゼロッテはやさしく梳いた。

「わたくしはすぐに戻ってまいりますわ」

「ねぇ、お姉様……ルカってどんな子? あんなふうに言われても、わたくしどうしたらいいのかわからない……」

 うとうととまどろみかけるツェツィーリアは、いつもよりもちょっぴり素直だ。戸惑いが伝わってきて、義弟の行いが少しだけ申し訳なく感じてくる。
 ルカは昔からこれと決めたことは必ずやり通す子だった。一度気に入ったものは、ずっと大事に扱っている。その徹底ぶりは、熱しやすくて冷めやすいリーゼロッテも見習わなくてはと思うほどだ。

「ルカは一度信じたことは絶対に曲げない子です。ちょっと頑固なところもあるけれど、まっすぐでとても頼りになりますわ」

 姉の欲目かとも思うが、ルカは本当に努力家でいい子だ。人への尊敬と気遣いを、決して忘れることはない。

「お姉様とルカは、本当の家族ではないのでしょう?」
「確かに血のつながりはないですわ。ですがわたくし、ダーミッシュ家は本当の家族だと思っております」
「……家族って何? お父様もお母様もわたくしを置いていってしまったわ……叔父様と叔母様が新しいお父様とお母様になったけれど、あんな人たち、家族じゃない……」

 そう言いながら、ツェツィーリアはすぅっと寝入ってしまった。あどけない顔を、ひとしずくの涙が横切っていく。リーゼロッテはその小さな体をぎゅっと抱きしめた。
 同情したところで、自分に何ができるわけでもない。中途半端に手を差し伸べても、傷つくのはきっとツェツィーリアだ。

(下手なことをするとまた、ジークヴァルト様にご迷惑をかけてしまうかもしれないわ。エラにもくぎを刺されているし……)

 エラの話では、両親を亡くしたツェツィーリアに、レルナー家の人間たちも初めはみな同情的だったそうだ。だが、何年たっても癇癪(かんしゃく)を起し続ける彼女に、次第に人は離れていった。
 養父母となった叔父夫婦に息子が誕生したことが、そのことにさらに追い打ちをかけた。使用人たちにしてみれば、わがままな前公爵の娘に取り入るよりも、新公爵の跡取りについた方がいいというのは、当然の流れと言えるだろう。

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