寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「おやおや、知らぬ間にお嬢様に春が」

 突然割り込んだ声の主に、ルカは咄嗟(とっさ)にツェツィーリアを背にかばうように立ちはだかった。

「これはこれは、なんとも勇敢な騎士様だ」
「グロースクロイツ!」

 不機嫌そうなツェツィーリアの声がすると、そのひょろりとした長身の男はルカに向けて(うやうや)しく腰を折った。

「これはとんだ失礼を。わたくしめはツェツィーリア様の従者、グロースクロイツと申します。以後、お見知りおきを、ルカ・ダーミッシュ様」
「ツェツィー様の従者?」

 ルカが確かめるように振り返ると、ツェツィーリアは不満げな顔のまま小さく頷いた。

「では、ツェツィーお嬢様。旦那様の(めい)ですので、お諦めになって今回はすんなり素直に帰っていただきますよ」

 しぶしぶといったふうにツェツィーリアはグロースクロイツの手を取った。

「ツェツィー様……」
 哀しそうにルカの視線がその背を追う。

「ルカ。わたくし、リーゼロッテお姉様みたいに、作法を完璧にして見せるわ。次に会うときに、あなたを驚かせてあげるんだから」

 振り返ったツェツィーリアの言葉に、ルカの瞳が輝いた。

「はい! わたしもツェツィー様の横に立つに相応(ふさわ)しい男になるべく、日々努力を(おこた)りません! 手紙も必ず書きます!」
「べ、別にルカのために淑女になるのではないわ。それに、手紙は読んであげてもいいけど、返事を書くかはわからないんだからっ」
「読んでいただけるだけでしあわせです! わたしはいつ、どこにいても、あなただけを思っています」

 ルカが真剣な顔つきで言うと、ツェツィーリアは再び真っ赤になって口をぱくぱくさせた。

「なんたる甘酸っぱさ……若さとは空恐(そらおそ)ろしい」

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