寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 片手で目を覆い、天を仰ぎながら大仰に言ったグロースクロイツの足を、ツェツィーリアが盛大に踏みつけた。

「おおうっ! ツェツィーお嬢様、先ほど淑女宣言をなさったではありませんか」
「そんなもの、帰ってからよっ」

 どすどすと足音を立てながら、ツェツィーリアはひとりエントランスの出口へと向かった。

「では、フーゲンベルク公爵様、今回もツェツィーリア様がたいへんお世話になりました。寛大なご対処に、心より感謝いたします」

 グロースクロイツはジークヴァルトに恭しく礼を取ってから、ツェツィーリアの後を追っていく。

「ツェツィーリア様!」

 その長身を追い越して、ルカがツェツィーリアへと駆け寄った。驚き顔で振り返ったツェツィーリアを、その勢いのままルカはいきなり抱きしめた。

「無作法をお許しください。ですが、今だけは……」

 耳元近くで苦し気に言われ、ツェツィーリアは背をピーンと伸ばしたまま固まっている。

「ツェツィー様、必ずお迎えにあがります」
 そう言って、ルカはツェツィーリアの耳たぶにそっと口づけた。

「な、な、な」
「ななな?」
「なんてことするのよっ」

 真っ赤になった耳を押さえて、ツェツィーリアは絶叫した。追いついたグロースクロイツは、おやおやという顔をしている。

「ルカ・ダーミッシュ様。お別れのご挨拶はそのくらいでよろしいでしょうか?」

 満面の笑みで言われ、ルカは名残(なごり)()しそうにツェツィーリアを腕から解放した。

「いくわよっ、グロースクロイツ!」

 赤くなったままの顔をつんとそらすと、ツェツィーリアはひとりずんずんと行ってしまった。

「では、ルカ・ダーミッシュ様、御前失礼いたします。今後もツェツィーリア様のこと、何卒(なにとぞ)よろしくお願いいたします」

 恭しく腰を折ったところで、「グロースクロイツ!」と、焦れた声が飛んでくる。やれやれといった感じで、グロースクロイツはその場を後にした。

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