寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「ルカ、あまりツェツィーリア様を困らせてはいけないわ」

 神妙な顔で見送っていたルカに、リーゼロッテが声をかけた。くるっと振り返ったルカは、思いのほか落ち込んでいる様子はない。

「いえ、あの程度の行いは、わたしのこの年なら、まだ許されるかと思いまして」
「まあ!」

 天使の笑顔で言われ、リーゼロッテは目を丸くした。ルカは間もなく十歳になる。貴族とはいえ、子供の(たわむ)れと見逃される年齢かもしれない。だが、その言動は大人顔負け。もはや策士と言っていいほどの成長ぶりだ。

「それに、あれくらいしないと、本当に忘れられてしまうかもしれません。わたしはそんなのは嫌です」
「ルカの気持ちは分かるけれど……ジークヴァルト様のお立場もあるでしょう?」
「いや、問題ない」

 ぽん、とリーゼロッテの頭に手を乗せてくる。心配そうに見上げたリーゼロッテの手を取り、「いくぞ」と言ってジークヴァルトは歩き出した。

「あの、ヴァルト様、今日はルカもエラもおりますので、送っていただくのはここまででも……」
 ここ数日、ジークヴァルトはめちゃくちゃ忙しそうにしていた。それこそ顔を見ない日もあったくらいで、そんな中、馬車留めまでとはいえ、わざわざ送らせるのも申し訳なく感じてしまう。
「問題ない。そこまで送る」

 エントランスを出て、馬車留めへと向かう。ダーミッシュ家の馬車が見えて、リーゼロッテはそこで止まろうとした。

「お前はこちらだ」
「え? ですが」

 そのまま手を引かれてさらに進み、いつもの公爵家の馬車に乗せられた。ルカとエラはダーミッシュ家の馬車へと乗ったようだ。

 リーゼロッテが乗り込むと、ジークヴァルトも当たり前のように隣に座った。扉が閉められ、御者が出発の準備を始める気配が伝わってくる。

「え? ジークヴァルト様?」
「言っただろう。そこまで送る」
「そこまで……?」
「ダーミッシュ領までだ」
「えぇっ!?」

 リーゼロッテが()頓狂(とんきょう)な声を上げたタイミングで、ジークヴァルトの膝に乗せられた。ほどなくして、馬車が静かに進みだす。

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